デニロ

こんな私じゃなかったにのデニロのレビュー・感想・評価

こんな私じゃなかったに(1952年製作の映画)
3.5
1952年製作公開。原作北条誠。脚色池田忠雄 、川島雄三。監督川島雄三。

先日観た同じ川島雄三監督作『花吹く風』にも出演していた神楽坂はん子という現役芸者さんのデビュー曲を主題歌にしたらしい。芸者さん役で本作にも出演していて、彼女の歌うこの主題歌が随所に流れて耳にこびり付きます。「ゲイシャ・ワルツ」の歌い手だと聞いて、その歌なら知っている。

宮城千賀子、水原真知子の姉妹の物語に中年男性が絡んで、しかもその男と姉妹にはいわくがあって、とこれ『花吹く風』と一緒じゃないかと思えば原作者が同じだった。元芸者の宮城千賀子は日舞を教えながら生計を立てているのだが、妹にはきちんとした教育を受けさせて世の中に流されぬよう自律的な人間になって欲しいと大学に通わせ支援をしている。加えて、芸者時代に懇ろになった男山村聰の子を身籠り産んでいる。山村聰は出征し戦地に向かうが、敗戦後、山村聰の兄から相当の金を渡されて手切れさせられる。生まれた子供は田舎の父に預けて二重生活。

妹の水原真知子は、『東京マダムと大阪夫人』の大阪夫人を演じていた役者さんでここでもスラリとした姿勢の美しいリケジョ研究生を演じている。彼女は同じ研究室の学生に好意を寄せていたのだが、その彼がなんと同窓の親リッチ研究生と結婚することを知る。ままならぬものはままならぬ。お金の世の中なのね。姉の借金と二重生活の苦労を見るにつけ、自分の儚い恋の無残を思うにつけ、世の中は金を中心に回っているんだと知る。それじゃ自分も、と自覚している美貌と知性を惜しみなく使いましょう。姉譲りの踊りも武器に加えてゲイシャ・ガールになるのです。

そんなこんなで物語は進んでいくのですが、芸者と客として知り合った山村聰が、実は姉が契った相手と知り、/子を生しながら姉を捨てた卑怯者!!/何のことだ。/金を渡して手を切らせたでしょう。/そんなことは知らぬ。僕は復員後お姉さんを探したんだ。/そんな時、宮城千賀子とその息子が登場し、お互い再会の涙涙涙。思わず貰い泣きしてしまうではないか。

ベガだのアルタイル等と譬えながら、水原真知子を回りくどい口説き方をして全然気づいてもらえない同じ大学の天文学研究員との恋の予感で物語は終わります。

若き日の桂小金治が喜々として幇間芸を見せています。可笑しい。

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