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モンテンルパの夜は更けてのodyssのレビュー・感想・評価

モンテンルパの夜は更けて(1952年製作の映画)
3.7
 モンテンルパはフィリピンの地名で、第二次世界大戦が終わったあと、日本人のいわゆるB・C級戦犯がそこの刑務所に収容されていました。
 彼らの望郷の嘆きに基づく歌謡曲が、昭和27年に大ヒット。それもあって戦犯の早期釈放をという声が高まって種々の働きかけがなされ、フィリピン政府は恩赦の措置をとり、収容されていた日本人たちは帰国できました。

 この映画は釈放が実現する前年の東京を舞台にしています。
 いいなずけの青年がモンテルンパに収監されていて帰国せず、それを待つ若い女性(香川京子)の苦悩と心理的な揺れを描いています。
 彼女は正式に結婚したわけではなくあくまで許嫁に過ぎないのですが、それでも青年の家に入り、元軍人である頑固な義父(というか義父になるはずの人)に仕えて家事などにいそしむ毎日。
 しかし夫となる人がいつ戻ってくるか分からない。
 唯一の慰めは夜学に通って勉強していること。
 そこで、小学校教師の独身男性と知り合い、彼からモーションをかけられて・・・という筋書きです。

 ヒロインだけでなく、正式の結婚をして一子をもうけたものの、やはり夫がなかなか戻らず・・・という戦争未亡人(というか夫が死んだと決まったわけではないので、戦争未亡人予備軍と言うべきでしょうか)も出てきます。

 戦争がいちおう終わっても、その後遺症がまだ続いていた時代に生きる人たちの苦悩が、率直に伝わってくる映画になっています。

 私は戦時中の出来事を政治利用する昨今の風潮には批判的な人間ではありますが、フィリピンでは日本軍は現地民に多大な損害を与えています。大岡昇平の『野火』(映画化もされていますね)を読んでもその深刻さはよく分かる。にもかかわらず戦犯に寛大な恩赦を与えてくれたフィリピンには、日本人として感謝すべきでしょう。

 また、物資に乏しく今から見れば理不尽なことも多い戦後まもない世の中で必死に生きていた日本人の姿からも、学ぶべき点は多いはずです。
 今どきの邦画とは違い、市井に生きる人々の「必死さ」が素直に伝わってくる作品になっています。
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