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来るべき世界の一人旅のレビュー・感想・評価

来るべき世界(1936年製作の映画)
4.0
ウィリアム・キャメロン・メンジース監督作。

イギリスの架空都市エヴリタウンを舞台に、1940年から約100年間にわたり人類が辿る歴史を描いた近未来SF。

『月世界旅行』(1902)『宇宙戦争』(1953)(2005:リメイク)の原作者でSFの父と呼ばれるH・G・ウェルズが1933年に発表した近未来小説「The Shape of Things to Come」を原作にしたイギリス映画で、ウェルズ自身が脚本を手掛けている。

1940年から2036年までの約100年間にわたる人類の歴史を半ば予言的に描いており、その的中率に驚嘆する。
1940年の世界戦争の勃発に始まり、長引く戦争によって崩壊する都市、蔓延する伝染病、圧政的独裁者の台頭、最先端科学都市の建設、そして科学の驚異的な進歩による月ロケット打ち上げまでの人類の苦難と栄光の歴史を、ミニチュア撮影&エキストラ総動員のダイナミックな映像で描き出す。

実際に第二次世界大戦が勃発したのは1939年であるから、本作の設定とわずか1年しかずれていない。
エヴリタウンを支配する独裁者はナチスのヒトラーを想起させる(名前が“ル”ドルフというのもポイント)。
人類が月面を目指すという発想も見事に的中。ただ、実際に人類が月面着陸を成し遂げたのは1960年代末(本作では2036年の時点で未達)なので、科学の進歩はウェルズの予想を大きく上回る速度で進んでいる。
また、劇中チラッと“薄型テレビ”らしき物が映ったり、現代的デザインの航空兵器が複数登場するなど、本作が1936年製作であるという事実に驚かされる。

さらに、未知の伝染病=“さまよい病”の症状がまるでゾンビであり、ゾンビ映画の生みの親であるジョージ・A・ロメロよりずっと以前にウェルズがその原型を創り出していたことが分かる。屋上から感染者を射撃する場面は『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)とそっくり。感染した妻を殺すか殺さないかで一悶着する場面もどこかで見覚えがあるような…。

テーマは科学の進歩と人類。発達した科学技術の悪用により戦争の大規模な惨禍が招かれるという科学の負の側面を描いていながら、最終的には科学の進歩は人類の必然であると肯定的に捉えている。つまり、進歩した科学を人類がどう扱うかを問うた作品であり、宇宙開発のような平和的使い道であれば科学の進歩は人類に栄光の歴史をもたらすエネルギーとなり得る、としている。科学と人類の適切な付き合い方を示した上で、映画の前半で描かれるような凄惨な悲劇を引き起こさないよう人類に警鐘を鳴らしている。現代的価値観から見れば至極当然の主張なのだが、これが戦前1930年代の映画であることに意義がある。

ちなみに、確認した範囲では本作のDVDレンタルはありませんが、ネットで廉価版DVD(¥1,000前後)を入手できます。
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