大勢が浪花節を楽しんでいるところから始まる物語。客席ではそこらに落ちていた財布が次から次へと誰かの手に渡っては、また畳に放り出されている。
小津安二郎監督の「喜八もの」シリーズの第一作目である本作。題名から想像するに、良い年した大人が出来ごころから色恋に発展する的なお話かと思っていたら、人情に溢れた心温まる素敵な家族の物語でした。こちらも松田春翠さんによる活弁入りを鑑賞。
喜八は教養がなく、想い人に振られると酒に逃げて周りが見えなくなるような一見どうしようもない男ですが、周りがついつい世話を焼いてしまうような人情深く、愛情愛い人間です。
そんな喜八の息子・富夫はと言うと、勉強熱心な上に毎朝のように喜八と次郎を起こす、父とはまるで正反対と言っても良いくらい出来がいいですが、所詮はまだほんの子供。拗ねたり悪戯したり、そんな可愛い一面もあります。
個人的には、この時代の一般的な親子の日常を垣間見れたような気分にもなりました。子が親を、親が子を想う姿がとても繊細に描かれていて、喜八が不器用なりに息子を心配する姿はとても愛おしいものでした。父がなんの抵抗もせずに息子に頬をぶたれ続けるシーンがなんとも印象的です。
前日に鑑賞した『生まれてはみたけれど』同様に子供が「しぇー」とする場面が何度もあったので、どういう意味なんだろうと気になって母に聞いてみたら「知るわけないでしょう。その頃まだ生まれてないんだから」と言われちゃいました😂
喜八のキャラクターは「寅さんシリーズ」の原点とも言われていると知り、思わずびっくり。「寅さんシリーズ」はまだ一度も観たことありませんが…
(メモ↓)
やがて喜八は抜き手を切って泳ぎ続ける
あの懐かしの下町へ
富夫のいるかーやんのいる次郎のいるそして春美もいる人情の町 下町へ泳いでゆく
人情紙より薄き今のより
心に残る出来ごころ