あまのうずめ

出来ごころのあまのうずめのレビュー・感想・評価

出来ごころ(1933年製作の映画)
3.8
喜八は息子の富夫(富坊)を連れ次郎と寄席へ浪花節を聞きに行く。二人は同じ長屋に住み同じビール工場で働く以上の仲。寄席の帰り一人の女を見かけた喜八は自分に気があると思い込む。行きつけの飲み屋の側でまた同じ女と出会い更にいい気になる。聞くと女は紡績工場をクビになり泊まる所が無いと言う。喜八はおかみに女を泊めさせてもらう話をつける。


▶︎小津安二郎の無声映画で「喜八」シリーズの第
1作目を初めて観た。こういった人情喜劇を作っていたとは知っていたが、所謂小津作品とはまた違ってより新鮮だった。

妻に逃げられ男寡で富坊を育てる喜八だが、育てているのか育てられているのか分からない始末。貧乏だが酒と女好きな喜八に次郎ら周囲の者で富坊を育て、学の無い喜八を反面教師としてなのか学業は優秀で親思いの富坊。

喜八と富坊のやり取りがとにかく可笑しく愛しい。笑って泣いて沁み入る作品。

この頃既にローアングルは始まっていたと知れたことも貴重だったし、弁士の代わりに寺田農と倍賞千恵子が声を担当していたのは長短あるが、若い世代には受け入れられ易いかも知れないと思う。

昭和中期の長屋の生活や今では使われなくなった言葉や文字が存分に味わえる。兎角戦前の空気は廃止したがる今日で、もっとこの様な生活の一部を郷愁としてだけではなく知るべきだと思わせられた。