少女ティタはペドロと恋に落ちるが、家系の伝統により末っ子のティタは結婚を許されず、ペドロは姉と結婚することになる。ティタは母親以上に使用人ナチャに心を開いており、彼女から料理の楽しさを教わり、愛と料理が並行線で描かれる寓話的なラブストーリー。
時代は1910年、詩的にペドロとの恋物語をオレンジの色彩とあたたかな音楽で綴り、包丁で切り刻む心地よいリズムと、匂いまで漂ってきそうなメキシコ伝統料理の数々に目を奪われる。
コミカルな描写も流れるように美しい言葉の数々に包み込まれ、壮大かつ普遍的なラブストーリーがしっかりと深みを纏い、触れなくとも体に漂う官能的な質感をゆっくりと感じ取ることができる。
叶わない愛を物理的ではなく料理という愛の伝達手段で彼を支配する。体に流れていく自分の一部が、二人の生きる理由となり、育む愛の形と、それに寄り添う度重なる不幸な現実にただティタの幸せを観客も願わずにはいられない。時代を感じさせる厳格な家庭の規律と、母の亡霊、そうして何より大事な家族との団欒の時間が交差し、それぞれの思いが料理を介して言葉よりも重く伝わってくる。それはそこに"愛"が確かに存在するからだろう。メキシコらしい情熱的かつ伝わりやすい起動哀楽が、自然現象にまで影響を及ぼす、超現実的でありながら、それは人間の想像力が導く様である。それは常に人を支配し滅ぼす。それを料理に投影することでとろけてかき消されていくのだ。
引き継がれる伝統料理の一つmoleソースにはチョコレートが使われます。エンチラーダスも好きですけど、モレ大好きなんです。時代を感じさせる暗い色彩の中で、黒いソースは色的に映えないのに、そのテクスチャーがよく伝わり、とても美味しそうに見えます。手間暇かけて愛情を込めるとどんな料理も心を動かす。そうしてそれは自分の自信にも繋がっていくのだ。溢れそうな感情が良い具合に混じり合い、素敵なスパイスとなり極上のレシピが完成。