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深夜の告白のくりふのレビュー・感想・評価

深夜の告白(1944年製作の映画)
3.0
【堕ち場のない男】

ジェームズ・M・ケインの原作小説は、1936年に書かれた古いものですが、お、今読んでもけっこうキテル、と面白かったので、映画版もみてみました。

しかし、借りたDVDはかなりの低画質。これがまず、いけなかったのかも…。

ノワールの古典と言われる本作ですが、かなり退屈してしまいました。ヘイズ・コードの呪縛と、映画初心者チャンドラーの脚本に悩まされながら、ワイルダー監督は手堅くまとめたとは思いますが、肝心な所で残念でした。

・初めて殺人に手を染める男の、発作を起こすほどの凄まじい葛藤。
・こいつ相手じゃ狂っても仕方ないな、と思わず頷くファム・ファタール。
・逃げ場を失った男が、底なしの奈落に堕ちてゆく、どす黒い恐怖。

原作を楽しんだ個人的感覚からだと、これら3つが圧倒的に足りません。

一つ目は、そもそもそのシーンが存在しない。また男の心情は本人の独白で、次々サラリと処理されてしまい、心に留まるところがほとんどなかった。ノワールの型を作ったと言われる語り口ですが、効果的とは思えなかった。

男が顔を顰める画に「その時オレは嫌な予感がした」みたいな台詞が被ると、さすがに苦笑しちゃいました。シナリオ学校で教わる悪例みたいです。

二つ目は、原作でもあまり魅力的でなかったので、実写化に期待したのです。が、バーバラ・スタンウィックさんには私、まったく惑わされませんでした。今なら街中歩いてれば、これ位の美脚で美人はいるよなあ…と思ってしまい。

そして、原作の「男の心を狂わせる女体美」が見当たらない。当時は直接描けないこともわかりますが、アンクレットの暗喩じゃ弱いし。あと、あのブロンドのヅラ、クッキリ加減がちょいとヘンで、冷めました。彼女、声はすごくクルんですけどね。ラジオドラマだったら騙されたかも。

三つ目が、いちばん残念でした。ここがノワールの肝だと思うんですが…。

完全犯罪を目論む男は、ある方法で「落下」による死を演出するわけですが、原作だとこれが、比べたら軽い「予行演習」になっていたことが後でわかり、最後に本物の奈落が、真っ黒な大口開けてごぉぉぉと待っているのです。

ネタバレなので書けませんが、私には映画の百倍はコワ面白かったですね。確かに作りは過剰なんですが、意図が成功しているから、余韻が凄いんです。で、女も最後まで怖い。船人を惑わすローレライの魔女のように…(笑)。

映画版だと、きれいに収まるんですが、堕ちるべき奈落が見つからず、地べたの上で燻るようなエンディングで、地団駄ふんでしまうのでした。

他にも色々あるのですが、主なところは書いたので、この辺で終わります。原作を読んでいなかったら、ふつうに楽しめたような気はします。悪い画質でも、黒さの効きはよかったし、お話の進め方はスマートでみ易い。

原作よりは鈍いけど、E・G・ロビンソンさんの切れ者ぶりも小気味よかった。あとジーン・ヘザーさんのプチ小悪魔に、バーバラさんより萌えました(笑)。

<2012.12.11記>
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