一人旅

ライフ・イズ・ミラクルの一人旅のレビュー・感想・評価

ライフ・イズ・ミラクル(2004年製作の映画)
5.0
エミール・クストリッツァ監督作。

ボスニアの片田舎に暮らすセルビア人ルカの波乱の人生を描いたドラマ。

『パパは、出張中!』(1985)『ジプシーのとき』(1989)『アンダーグラウンド』(1995)のエミール・クストリッツァ監督による狂騒劇的人間賛歌の秀作。相変わらずの騒々しさ&特徴的な音楽はそのままに、本作はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景にした濃厚な人生ドラマが展開される。また、『アリゾナ・ドリーム』(1992)『黒猫・白猫』(1998)同様、“生き物”が数多く登場する。人間と同じくらいに生き物の存在感が大きくて、ロバ・馬・羊・犬・猫・鶏・鳩・ガチョウ・カラスなど多種多様な生き物があらゆる場面で登場する。中でも、線路上にたたずむ一頭のロバは象徴的存在として描かれ、主人公の人生を決定づける重要な場面でも姿を現す。

物語は1992~1995年に発生したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景にしており、ボスニアの片田舎で家族と平和に暮らしていたセルビア人のルカが突如勃発した紛争に家族ともども巻き込まれてゆくお話。ルカの妻ヤドランカはハンガリー人の音楽家と駆け落ちし、一人息子ミロシュは徴兵され敵の捕虜にされる。そうした中、ルカはミロシュと捕虜交換するためのムスリム女性サバーハと一緒に暮らし、やがて恋に落ちるという粗筋。紛争当時、ムスリムとセルビア人は敵対関係だったが、ルカとサバーハは民族の違いを越えて愛を結ぶ。敵同士の男女の愛の行方を描いた、まさに希望的な人間賛歌。人間本来の愛の強さが、民族を引き裂く紛争の悲劇を軽々超越してゆくさまは感動的で圧巻の力強さ。爽やかで希望に満ちた結末に後味がいい。

紛争が背景にありながら、人一倍の明るさと騒々しさを貫いた作風はいつものクストリッツァ流人間喜劇。人間臭さプンプンの個性豊かな登場人物も魅力的。
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