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トゥルーマン・ショーの都部のレビュー・感想・評価

トゥルーマン・ショー(1998年製作の映画)
5.0
年末なのでマイ傑作選の再鑑賞──最初から自分の人生は誰かの掌の上であると気付いた男が、自分の人生を取り戻す為に奮闘するというプロットは最高の一言で、始まりから締めに至るまで小粋さと毒気と愛嬌を欠かさないこの世に現存する映画という媒体の最高傑作の内の一本。

ジム・キャリーの持ち前の善性溢れる立ち振る舞いありきのストーリーというのも興味深く、不遇の立場に晒される彼に同情的な気持ちを抱くのと同様に自由を渇望する姿に応援の心持ちを向けるのはそう難しくない作りで、作中の視聴者の視線と観客の視線がメタ的な構造としてピタリと嵌り結実する瞬間の感動は一塩だ。

子供の頃に志した冒険家の夢というさりげない過去の挿入に対しての、終盤の晴れ晴れとしたあの『行動』に伴う顔付きはやはりどこまでも愛おしく、物語上に散りばめられた要素の華麗な収束には無駄がない。
自分の住まう世界は作り物であると気付いた男の破れかぶれな挙動は痛快で、必死に番組続行を取り繕おうとするキャスト達の言動にも大いに笑わせられる。

この物語の魅力は内に完結するに留まらないという点で、観客と視聴者を重ね合わせるメタ的な構図の他にもこの番組の造り手であるプロデューサーがトゥルーマンに向ける一方的な父性の描写も本作の味わい深さをより補強している要素の一つである──本作は父親を巡るトラウマを乗り越える、言わば親離れの物語であるのは自明なのだけれど だからこそ最後の最後はあの問いかけを物ともせずに、お決まりの台詞で幕を閉じるというロジックで……やはり尾まで大変素晴らしい作品だ。

脚本面でよく練られた作品である一方で、どこか閉塞感を帯びた島内でのショットの数々と空の背景に掛けられた階段を登る幻想的なカットは疑いの余地なく画としての美点であり、かように本作は隅から隅まで不足のない完璧な映画であると言わずにはいられない。
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