フレッド・アステア主演、1950年代のMGMミュージカル。落ちぶれたスターが旧友から舞台ミュージカルへの主演を持ちかけられ、ドタバタを乗り越えながらショーへと臨んでいく。アステアは既に50代半ばでありながら歌もダンスもキレッキレ、お馴染みのタップも含めて洗練された魅力に溢れている。そしてアステアだけではなく、シド・チャリシーやジャック・ブキャナンなど代わる代わる見せ場を披露する他の俳優陣も印象深い。本作、アステアの存在感のみならず共演者達の魅力もしっかり引き出されている華やかさが楽しい。
“かつて大スターだった落ち目のミュージカル俳優”という主人公の設定に加えて、シルクハットやステッキが過去の出演作の衣装として冒頭に出てきたりなど、アステア自身のパロディとしての要素がだいぶ強いのが何だか面白い。競売に掛けられた私物がろくに売れなかったり、記者達がアステアそっちのけでエヴァ・ガードナーの方へと向かったり、自虐ネタめいた演出が妙に味わい深い。こういう役柄をひょいっと演じられることも含めてバイタリティーの高さが伝わってくる。
『By myself』や『That's Entertainment』など数々のスタンダード・ナンバーが彩るミュージカルのシーン、やはりいずれも素晴らしさがある。靴磨きの黒人ダンサーと共演する『Shine on your shoes』なんかはセットのギミックも相俟って非常に楽しい。そして後年の映画でもオマージュされた『Dancing in the dark』は、夜の公園というシチュエーションやアステア&チャリシーの優雅なアンサンブルがバッチリと決まっていた。
衣装や美術などもカラー映像のお陰で華やかに映えていて、歌劇パートと共に絵的な魅力を引き立てている。展開もコミカルかつテンポ良く進んでいくので見やすく、ドタバタと可笑しい場面も多いので憎めない。ロマンス自体は何てこともないけど、景気の良い映像によって煌びやかに演出されている。まぁ改めて振り返ってみると、作中の山場となる劇中劇よりも靴磨きや初演失敗打ち上げなどのシーンの方がアイデアが面白くて印象に残ったのはある。
一度は峠を越えていたアステアのキャリアを反映したような物語の設定ではあるけど、寧ろ“カルチャーの変化に対応できずに斜陽を迎えた存在”という意味ではMGMの方を連想する部分がある。アステアはその後バイプレイヤーに転身して長らく活躍するけど、MGMはロックの台頭やテレビの普及などで既に揺さぶられていただけに。それでも本作の楽曲が巡り巡って『ザッツ・エンタテインメント』シリーズへと繋がっていくことに、後々のジャンルの血脈やMGMミュージカル復刻の歴史を感じる。