平凡な主婦が洗剤や香水等様々な化学物質を使用した結果縮んでしまう、コメディエンヌでもある「グレイス&フランキー」のリリー・トムリン主演のフェイバリットのジョエル・シューマカー監督のデビュー作となる50年代のSF「縮みゆく人間」のパロディ的作品。

飲み物や薬品を紹介したり勧めてくる買い物帰りに通る住宅街の面々や大量の購入品をラグタイム的BGMに合わせスピーディーにあれこれ戸棚に入れる序盤からいかに現代が様々な物に溢れ人々がそれらを消費しているかが伺える今作は、「縮みゆく人間」が真面目なSF的内容だったのに対し「インナースペース」や「トイ・ストーリー」的なコメディ。

縮んだことで有名になりテレビ出演まで果たすも、子供達の面倒はまともに見れないわおもちゃのロボットや人形に行く手を阻まれるわおしっこ浴びせられるわとてんやわんや。更にボイスレコーダーを使い自伝的語りを録音するも再生すればおもちゃの家が音の振動で地震、ディスポーザーに落っこちて残飯が放り込まれる中脱出とユーモラスでありながらスリリングな要素が用意され、脱出の際スニーカーをそこで脱いだことで家族に事故死扱いされ庭の片隅で超ちゃちい葬儀をあげる辺りはブラックジョークが効いてます。

その隙を見計らって主人公は研究所に連れられてしまうわけですが、そこで飼われているゴリラに協力を要請してからの脱出劇では大量のバナナの皮で警備員達が転んだりエレベーターを出たり入ったりのすれ違い等更にドタバタ度高まりコント的な面白さ。

終盤の「再生」はこれといった伏線も無ければ理由も説明されてないので都合が良過ぎる感じは否めないですが、オリジナルでも印象的だった序盤で滑り落ちる指輪が夫婦という関係を活かした効果的な役割を担っておりちょっと感動的でもありました。捉え方によってはバッドエンド（？）あるいはTo Be Continued なエンディングも高橋ヨシキ3の評論を読むと自立した女性の台頭という時代をユーモラスに反映させたものと言えるかも。

イメージ的には自身の個性を消し職人監督的印象のシューマカー監督ですが、デビュー作の今作では元々ファッション業界出身で監督の前は衣装係だったセンスを前面に出したのかお洒落なパステルカラーで彩られた服装や車が登場。それは「シザーハンズ」の先駆けといった感じでティム・バートン監督は今作を観た可能性大。

夫を演じるのは「ミッドナイト・ラン」や「ベートーベン」シリーズのチャールズ・クローディンで、「ブルース・ブラザーズ」のネオナチ役でも知られるヘンリー・ギブソンも博士役で出演。バラエティに富んだBGMを手掛けたのは女性シンセサイザー奏者のパイオニア的存在のスザンヌ・チアーニ。劇中のゴリラを手掛けたのはリック・ベイカーで、彼自身が中の人みたいです。

想像以上に楽しく、さり気無いメッセージ性も感じられる充実作でした。今作を教えて下ったジミーTさんありがとうございました！

• #ジャケ写登録ありがとうございました

【抑圧される主婦像】
『ジャンヌ・ディエルマン』や『バービー』が評価される中で、再評価されてほしい一本。

『縮みゆく人間』の単なる女性版ではない。『縮みゆく人間』は肉体労働者や兵士といった直接影響を与える仕事からサラリーマンの間接的抽象的仕事に世の中がシフトする中で男性が感じる無力感を形而上のアプローチから描いた。

一方で、『縮みゆく女』は主婦としてメディアや社会から消費抑圧されていく様をグロテスクに描いている。家事や育児に追われ、縮む身体もあり大変なものとなっていくが、家族はのほほんとしており叫びが伝わらない。ドールハウスのような空間で排水溝に落ちてしまう恐怖はめちゃくちゃ怖かった。

ずんだもん動画でも紹介しました。日本では入手困難作品となっているが、配信に来ないかなと期待している。

【ずんだもん】『縮みゆく女』紹介～もしも身体が小さくなったら?～【VOICEVOX解説】▼
https://m.youtube.com/watch?v=qCIW31UFR0c

「縮みゆく人間」のリメイクか、こちらは主婦のリリートムリン。インテリアにファッションがいちいち可愛い。夫役のチャールズグローディンまでパステル調のスーツ。ディスポーザーに落っこちるスリル、そっからマッドサイエンティストのヘンリーギブソンに捕獲されてゴリラのシドニーと飼育員のパーマのアイツとの逃亡アクションが熱い。孤独に押し潰されないトムリンさんの明るさと不屈の魂がまたコメディを盛り上げる。近所のオバハンと二役のトムリンさん。仕事テキトーな小柄なスパニッシュのメイドのお姉さんもよかった。肥大する続編もみたい。