くりふ

やさしい女のくりふのレビュー・感想・評価

やさしい女(1969年製作の映画)
4.0
【墓場まで持ってゆく女】

初ブレッソン。作り手の頑なさで映画が小さく美しく結晶化しておりとてもよかった。この拘りはわかり易いし意味を感じる。

また、演技くさくしない拘りで、逆に人物が見えなくなる面白さ。

本作は男の視点から、愛する人がわからなくなってゆく過程を描くけれど、物語と手法がぴったり寄り添っていて見事。静かに、怖くなる。ノワールとしての美しさもありますね。

作為を避けようとして無表情になる。リアリズムとも違う停滞感。カメラが迫るほどに本質から遠ざかるような逆説。素人の演者起用はこういう効果も出せるのか。初期の北野映画も思い出したけど。

女優ではなかったドミニク・サンダのデビュー作で、マネキンみたいな美顔が本作のアイコン。不器用さを醸させるための巧いキャスティングでもありますね。

画面の裏側からは、彼女のジレンマはすごく伝わってくる。でも男の視点からそれは見えない。…という構造を、情緒に背を向け冷やかに刈り取る作家性。

まさに映画だ、としか言えないけれど、こういう監督ってもう出てこないのでしょうか?

単純に、ドミニクさん二十歳のお肌を眩しく楽しむもよし(笑)。始め十六歳くらいに見えた、と語られるその肢体、確かに少女を若干引きずっていますね。今の感覚だと皮下脂肪がけっこう素朴(笑)。

結婚って、それだけでは器に過ぎないってことですね、改めて。中に入るだけでは幸せになれないし、入らなきゃいけないわけでもない。収まれない人だっている。しかし、このカップルをただ愚かだと決めつけるのは、映画的には愚かでしょう。

この物語が積み上げられた先での、あの「ネジの音」と暗転…これ刺さりますね…。少なくとも一つくらいは、まだ心臓にネジ、打ち込まれた気がして仕方ない(笑)。

が、ひとつ不満。いくら演技くさくしないとは言っても、死体の時は動かないで欲しい。あの路上でもベッドでも普通に呼吸しているから、妙な状況だけど昏睡状態って設定かと勘違いしちゃったぞ(笑)。

<2015.4.20記>
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