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やさしい女のbennoのレビュー・感想・評価

やさしい女(1969年製作の映画)
4.8
衝撃的なオープニング…。

ドアノブ…女中の手…ベランダで大きな音をたてて倒れるテーブル…空をひらひらと舞う白いショール…。

そして次のショットは…路面に横たわる無惨な女性の死体…。

原作はドストエフスキーの短編の中でも最高傑作と呼ばれる同名『やさしい女』。

ブレッソンは原作のプロットを守りながらも舞台をロシアから60年代後半のパリへと移しました。

ある若い女性(ドミニク・サンダ)はパリで質屋を経営する年上の男性の妻として迎えられます。つつましいながらに幸せな生活を送っていましたが、やがて…ふたりの間に隙間風が…。

一組の夫婦に起こる感情の変化と微妙なすれ違いを丹念に描き…夫婦とは…人を愛するとは何かを観ている側に問いかけます。

2人の間に愛があるのに、自分が自分でいようとする限り、互いに相手に苦しみを与える存在にしかならない…利発な妻はそのことに気づいてしまいます。
そして気づいた時には…救いのない…絶望……。

今作はブレッソン初のカラー作品。西洋の印象派の絵画のような淡い色彩…その中に原色が眩しいです。妻が車の中に投げ入れた赤・青・黄、そして濃い茶色の4冊の本…とても絵画的で美しい…。

また、ヒロインを体現するドミニク・サンダの美貌…目の表情の素晴らしさ…今作にはなくてはならない存在感…。初々しさの残るあどけない表情からフルヌードでの超芸術的な美しさにはドキッとさせられます。

一貫して『シネマトグラフ』に拘るブレッソンの演出…一切の虚飾を排除し、ほぼ素人という役者を用い、台詞も棒読み。あるがままの事象を映し出す…その画力は…圧倒的に素晴らしいです!
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