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スター誕生のesのレビュー・感想・評価

スター誕生(1976年製作の映画)
3.3
バーブラが演じたお陰で楽曲が印象的になったし、バーブラが演じたせいで映画としてのバランスが崩壊した気がする。

"A star is born"という作品があらゆる時代の音楽業界を映し出しているのは面白い。今作も70年代の女性の社会進出や倫理観のハチャメチャなアーティストなど時代をハッキリと映し出している点は興味深い。

ただ時代の落とし込み作業が雑。
作品の本質を理解した上でのリメイクに感じられない。時代要素を少し入れ替えて脚本やセリフをなぞっただけのような印象を受ける台詞やシーンが随所に見られる。
例を挙げるとすれば、エスターの歌声を釣りで大物を釣った快感に喩えるシーン。ジョンが釣りを趣味にしているようには見えず(新居も海沿いの家ではなく荒野の家だし)、台詞が上滑りしてしまっている。彼にふさわしい表現がもっと他にあったはず。

何よりも致命的なのは、「スター誕生」の肝である二人の関係性が曖昧。
ジョンがエスターの才能に心底惚れ込んでいるように見える描写が少ない。更に彼が彼女の才能をいち早く認め、才能を愛し、彼女の背中を後押ししたという事が重要なのに、その描写がとても薄い。
女性の自立というテーマを落とし込もうとした事と破天荒なミュージャンという時代性に併せて脚本や台詞を上手く変えなかったが故にキャラクターバランスが壊れている。
スター街道に乗ったばかりのエスターが新居の建設にじっくりと入れ込み音楽活動をしているように思えないのも謎。

ただ自殺の描写は現実的で時代を表していた。54年版の自分が愛した才能が自分のせいで潰れようとしている事に対する絶望が自殺の引き金になったという理由付けも良いけれど、あらゆる絶望が積み重なり束の間の幸せの直後にやってくる抱えきれない虚無感による自殺というのはリアル。

バーブラの歌唱力による説得力、クリストファーソンの魅力は十分に感じられたけれど、それ以上に雑な部分に目がいってしまった。
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