平和な人情喜劇。
渥美清さんがよかった。

運送屋の娘の江利チエミが芸者になって『さのさ』を歌う展開にはちょっと無理があったけど、脇役が豪華で面白かった。

渥美清は寅さんの原形かと思われるような役柄。森川信がおじちゃんだったし。

　いや昔々、吾妻橋の向こっ方がビール工場でね、日が暮れるてぇとネオンの波しぶきがザップンと上がってたっけ。まだ柳が清々してた雷門柳っ小路に入ってふり返りゃあ夏雲がよ松屋のタワーのグンと上、ここはひとつ暑気払いをって、ビール大一四〇円なりってぇ時分さ。チエミは社長で、兄貴が勘当モノの清。お父っつぁんは一郎って焼け跡ん頃から運送屋ぁ続けてたぁなぁ。まだオリンピックたぁ何処の事ぞってぇもんだった。高速なんぞぁありゃぁしねぇ。言問橋は男橋、ぽちっとランプが瀟洒なもんだ。それに盆踊りよ向島ぁ小梅の小学校からぁ夕空ん中、大川向う、松屋がでけえ舟みてえに見えたっけ。
　出入の職人衆の話の通りの浅草の様子がまことに懐かしげに迎えてくれる。かたじけなく眺めていると、一郎父っつぁんは後添いをチエミもうまく行きそうだし結構だ。柴又じゃあ清は寅になるそうだが、ここの清は晴れて堅気だ。また結構。