ポックンポクン

キング・オブ・コメディのポックンポクンのレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
3.2
主人公とマーシャはジェリーのストーカーという点に於いて共通しており、妄想的でおかしな行動をしてしまっている自分を客観視出来ない。
ただ、全ての行いは妄想の産物であり妄想することは人間のチカラそのもの。チャレンジし続ける主人公の図太さは何かを志す者にとって見習うべき所があるとも言える点において否定し切れないところがある。一方マーシャの妄想はいわゆるストーカーの域を出ないので、二人は大きく違う。

何か勢い勇んで行動したあまり空回りして上手くいかず羞恥心を覚えた経験は誰しもあるだろうが、そんな時に浮かぶだろう頭の中でのシミュレーションと妄想と羞恥とそして現実と乖離した成功した自分像とが渾然として描かれており、最後の本の出版やカムバックさえも妄想なのでは?というある種の入れ子的構造をしているように思った。
ところで笑いとは何かと考えるとき、人間の失敗や変な部分など通常の相場的事象からはみ出ることを笑ったりすることが多いように思う。それは笑いという共感がある種の人生の澱みや厄、緊張を払拭するとも表現出来る。ただし、笑うものは当事者の実際の心情などお構いなしに笑う。笑われているのか笑わせているのか。そこに介在する屈折のおかしさや怖さという、お笑いとは何か?という主題が描かれている。劇中に登場する主人公の部屋の壁面一面にあった観客席で笑う大勢の人々の写真はこの映画の主題を巧みに表現していた。本当に楽しそうにも見えるし、しかしその実他人の負い目を無責任に笑い蔑んでいるようにもとれ、笑いの表裏一体の性質を如実に表していた。笑いとは方便であり昇華であり共感であり共有であり。