キャッチ30

キング・オブ・コメディのキャッチ30のレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
3.8
 話題作である『ジョーカー』の予習の為に鑑賞した一方で、マーティン・スコセッシがマーベル作品を批判した理由が垣間見えた様な気がした。今作はスコセッシの個人的作品でもあり、デ・ニーロとの最高傑作『タクシードライバー』の姉妹編とも言える。

 時代は80年代のニューヨーク。主人公はルパート・パプキンというコメディアン志望の男だ。いかにも人を食ったような名前だ。パプキンは有名になりたいという野心を抱いている。目的は自分を馬鹿にした教師や同級生を見返す為でもあり、酒場の女店員であるリタの心を掴みたい為でもある。ルパートは大物コメディアンであるジェリーに取り入りコネを作ろうとするが相手にされない。挙げ句の果てには、ジェリーの熱狂的なファンであるマーシャとバディを組んでジェリーを誘拐する…。

 スコセッシは俳優たちに即興芝居をさせる。大物コメディアンに扮するジェリー・ルイスには台本を一切渡さなかったそうだ。
 白眉はやはりルパートに扮したデ・ニーロだ。デ・ニーロは偏執狂で妄想癖がありストーカーで粘着質のある男を体現する。モノクロのハリボテ相手に軽快なトークを繰り広げる姿には狂気が滲み出ている。サンドラ・バーンハードとの鍔迫り合いも楽しい。松田優作は本作を観て、デ・ニーロには勝てないと悟ったらしい。

 もう一つの主役はニューヨークの街並みだ。華やかになる前のタイムズスクエアや人々の粋な姿は時代を感じさせる。被写体になっているのはエキストラではなく、本物の通行人である。