螢

現金に手を出すなの螢のレビュー・感想・評価

現金に手を出すな(1954年製作の映画)
3.8
恋人でも家族でも友人でも…誰かと長い時を共有して、そして、共に老いていくこと。それは人によっては、豊かであると同時に意外と厄介なものなのかもしれない。その蓄積が、「腐れ」的なものでも「縁」になり、情になり、人生を噛みしめる時の彩りを添えるのだけど、同時に足枷になり、冷静・冷徹だったはずの判断を狂わせることがあるのだから。
苦味と哀愁を纏う老境のジャン・ギャバンの眼を見張るほどの圧倒的な存在感と、そしてあまりにも虚しいラストシーンに、そんなことを思いました。

5000万フランの金塊を盗んだギャング男マックス。彼は盗んだ金塊を巧妙に隠しもって売買の機会を窺っていた。老齢の彼はこれを人生最後の仕事と決めており、有終の美を飾るものであるはずだった。
けれど、マックスの20年来の相棒であったリトンは、入れ込んだ踊り子のジョジィに軽薄にも事件のことをばらしてしまう。彼女は彼らと敵対するギャング組織のボス・アンジェロの情婦で、話を聞いたアンジェロが金塊を奪おうとしたことから、やがて悲しい結末をもたらす抗争へと繋がって…。

単に欲にまみれたギャング同士の抗争を描いた任侠映画というわけではなく、老いと孤独を噛みしめながらも、その義理堅さと優しさ故に行動し、結果的に何もかも無駄にしてしまう老齢の男の姿を描くことで人生の侘しさを感じさせているのがこの作品の最大の魅力。
これにはもう、繰り返しですが、名優ジャン・ギャバンの重厚な存在感と醸し出す苦味が欠かせない。
ギャバンの、決して上品とか知性的ではなく、粗野そのものって感じなのに、この溢れるオーラと奥行きを感じさせる佇まいってなんなんでしょう。
いやもう、これぞスター!という感じ。
日本映画で言えば、三船敏郎や石原裕次郎を楽しむ感覚でしょうか。

ギャバン演じるマックスが好んでかけるレコードから流れる音楽の哀愁に満ちた旋律がマックスの人生を暗示するようで、これまた巧み。

当時はほぼ無名の駆け出しに近いけれど、後年名を馳せるジャンヌ・モローやリノ・ヴァンチュラなんかも出演していて、まさにフレンチ・ノワールの代表作の一つといった感じの作品です。
螢