YohTabata田幡庸

椿三十郎のYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

椿三十郎(1962年製作の映画)
4.4
「用心棒」続編。例に違わず、黒澤好きのスペイン人ルームメイトとスウェーデンにて鑑賞。

プロットは違うのに、既視感が強い。それもその筈、三十郎の行動パターンが「用心棒」と基本的に変わりないのだから。
三十郎が狂言回しに徹していた「用心棒」の一方で、本作は物語が最終的に彼に帰結する。

別に比べる物でもないのだろうが、個人的には本作の方が好みだ。
それは、このシリーズ(?)の見方が分かっていたからかも知れないが、プロット、クライマックスの見せ場、キャラクター、コメディ・リリーフ、役者等、本作は黒澤の最高傑作の内のひとつと言っても過言では無いだろう。

若侍たち、その場にたまたま居合わせてしまった浪人、悪者たちの策略、悪者の剣豪、知恵比べ、アクション、サスペンス、最後の長回しの衝撃。非の打ち所がない。

女性陣の明後日の方向を向いた馬鹿発言と、途中で捉えた敵が情報をリークし、押入れから出入りするくだりは大笑いしながら観た。

「そろそろ四十だが三十郎」「待ちくたびれて七十郎」等、「用心棒」で言っていたギャグを繰り返すのも、サービスとして嬉しい。姓の「椿」はそこから来ていたのね。

本作は「用心棒」とは打って変わって若者が多いのが印象的。そこにはまだ若い田中邦衛と、後に「赤ひげ」にも出て来る加山雄三がいる。そして脇を固める、志村喬をはじめとするおじさん銀幕スターたち。敵役には三十郎の合わせ鏡の様に仲代達矢が配される。そして何より圧倒的なカリスマ性と身体性の三船。スター映画だ。

全体的にコメディタッチの策略物なのだが、ラストはスッキリさと後味の悪さが同居する。睦田が三十郎を評する発言には、睦田の狸ぶりにゾクッとした。

そして室戸半兵衛と椿三十郎の決闘。映画史に残る名シーンだ。向かい合い、微動だにせぬふたり。見守る若侍たち。鳥たちのさえずりが少しずつフェードアウトする。目にも止まらぬ一瞬の一太刀。半兵衛の体から大量の血が吹き出す。
これが全てワンショットだからこその緊迫感。人を斬る事の暴力性と怖さ。

サウンドデザイン、圧倒的な速さの三十郎、斬られた時の血糊など、従来の時代劇とは違い、観ていてずっと新鮮だった。

全て観られている訳ではないが、黒澤作品の中でかなり上位で好き。
YohTabata田幡庸

YohTabata田幡庸