ノットステア

きみに読む物語のノットステアのレビュー・感想・評価

きみに読む物語(2004年製作の映画)
4.0
◯アマプラ紹介文
ある老人ホーム。初老を迎えてはいるが、未だに美しさを失っていないアリーは夢想に浸っている。そんなアリーに「もう寝る時間だよ」と優しく声をかける、デューク。彼は彼女の横に置いてあるノートを手に取り、やさしく読み始めるのだった。



○吉野万里子(2016)『シネマガール』角川書店(p.125,p.160,p.246)
※『シネマガール』の主人公が好きな映画。
大金持ちの令嬢と、肉体労働者の男の子が恋をする。ある廃屋までドライブする。そこが二人にとって、大切な想い出の場所になる。二人は、まわりの人たちに引きさかれてしまうけれど、その場所が二人の記憶をつなぐ。決してあきらめない物語。「泣ける恋愛映画」。現代版『ロミオとジュリエット』。主演を務めたライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスが実際に恋仲になった。



◯感想
宮台真司の『14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に』という本を読んでいる。第3章の内容が、愛によって永続する関係を築けるか、というもの。これを読んでるから、アリーとノアの関係が魅力的だった。

以下、ネタバレあり

















ロンという男性が不憫だったけど、この作品が良いものだと思えたのは、ラスト。

良かったところ
・変わったけど、変わらない愛。

疑問に思ったところ
・アリーからノアに手紙を出すことは無かったのか。出せば良かったのに。
・アリーの母が手紙を没収してたくせに、大人になってから手のひら返しして自分で決めるように言うところ。
・ロンの立場になるとアリーの行動は理解できない。



◯『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』を読んで。
荒木飛呂彦は「よい物語には、サスペンスがある」と言う。
サスペンスとは「読者をはらはらさせる緊張感の効果」。
また、よいサスペンスの五つの条件を提示している。
①謎
②主人公に感情移入できる
③設定描写
④ファンタジー性
⑤泣ける

この五つの条件に照らして『きみに読む物語』を考えてみた。
①の謎はなかった。アリーとノアがおばあさんとおじいさんになるまで連れ添ったことは冒頭からわかった。しいていえざ、どのように結ばれたのか、という謎くらい。
②の感情移入は微妙。すぐ喧嘩するところは共感できなかった。観覧車からぶら下がるとかも理解できなかった。ただ、階級の違う恋という点で感情移入できた。
③の設定描写はあった。今とは異なる年代の物語だけど、世界観に没入はできた。
④のファンタジー性はあった。一生連れそうという点で憧れを描いていた。
⑤の泣けるはあった。Filmarksのレビューを読むと、「泣ける」という人がたくさんいた。

ラブストーリーについて、荒木飛呂彦は以下のように述べている。

第二章で、このようなことを書きました。たとえ主人公が死ぬような悲しい結末でも、観終わった後、とてもいい気分になるのが男泣きサスペンスの特徴である、と。
それと全く逆の感情を抱くのが、情事サスペンス、そしてラブストーリーです。観ているときは楽しいし、ハッピーエンドで終わることも多い。なのに観終わった後は、澱のようにイヤな感情が必ず胸に残るのです。
たとえば、『卒業』(一九六七・米)。忘れられない女性の結婚式に乱入し、花嫁を奪って逃げる主人公に、おめでとう!二人に幸あれ!と祝福の心持ちになったはずなのに、エンドロールが流れるころには、「あの二人、別れるんだろうな。だって土壇場で新郎を裏切る女だし」とどこかで不幸の予感がしている。これは『卒業』に限らず、どんなに優れたラブストーリーでも同じです。
おそらく男の生き方を貫くというのは個人の問題だから、その信念は未来永劫変わらないだろうと思えます。しかし、男女の関係は相手次第の部分が大きくて、将来はどうなっているか予測できません。その危うさが、観終わった後、不安を与えるのでしょうか。これは男泣きサスペンスと、情事サスペンスのどちらがよいかという問題ではなく、男の友情と男女の恋愛関係の質が違うのだと思います。(pp.117-118)
荒木飛呂彦(2013)『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』集英社

これを読んで不思議に思った。
『卒業』は結婚式で花嫁を奪って逃げる話。だからどうせ長続きしない。エンドロール後の二人は大変だろうなぁと僕も思った。
『きみに読む物語』も結婚が決まってるのに、初恋の相手と再会し、初恋の相手を選ぶ物語。でもその後の二人は長続きしてた。



◯印象的なセリフ
冒頭。デュークのナレーション。
「私はどこにでもいる平凡な思想の平凡な男だ。平凡な人生を歩み、名を残すこともなくじきに忘れ去られる。でも1つだけ誰にも負けなかったことがある。命懸けである人を愛した。私にはそれで十分だ」

医者「認知症は回復しないんです。ある時期を境に諦めないと。」
デューク「みんなそう言う」
医者「希望を持ちすぎずに」
デューク「ありがとう。でも知ってるかね?"神の力は科学の限界を超える"」

@川
アリー「変わった」
ノア「何が?」
アリー「あなたの顔も…何もかも」
ノア「君はいい方に変わった」
アリー「でもやっぱり同じ」
ノア「そう?」
アリー「ええ。やりとげた」
ノア「何を?」
アリー「すべて。あの家。見事な仕上がりよ」
ノア「約束しただろ?」

アリー「約束したのよ。指輪と交換に」
ノア「もう破ってるだろ?」
アリー「彼と話してみなきゃ」
ノア「これは約束とか愛情とかの問題じゃない、安定だよ」
アリー「何のこと?」
ノア「金さ!」
アリー「そんな…」
ノア「富豪だろ?」
アリー「あなたなんか大嫌い!」
ノア「俺だって君が」
アリー「この2日は何だったの?」
ノア「さあね、俺の誤解だろ」
アリー「そうね」
ノア「君は退屈なのさ。満ち足りてたらここには来てない」
アリー「横柄なヤツ」
ノア「俺といてくれ」
アリー「なぜ?もうケンカしてるのに」
ノア「それが俺たちのパターンだ。君が俺をけなし、俺が"イヤミ女"と反撃する。99%事実だからね。それでも君は2秒で立ち直りまたイヤミを始める」
アリー「だから?」
ノア「うまくやるのは難しい。努力が必要だ。でも俺は努力したい。ずっと君が欲しいから。一緒にいたいから。お願いだ。将来を思い描いてみて。30年後40年後誰と一緒だ?もしヤツなら行け!それが君の望みなら俺は耐えていける。無難に選ぶな」
アリー「無難って?どうやっても誰かが傷つくのよ」
ノア「人のことは考えるな。俺もヤツも両親も忘れろ。君だよ。問題は」
アリー「そんな…」
ノア「君はどうしたい?どうしたい?」
アリー「行くわ」

ロンとの会話。
アリー「ノアといる自分とあなたといる自分が全く別人みたいな感じなの」

ラスト。
"愛の物語 アリー・カルフーン著 最愛のノアへ。 これを読んでくれたら私はあなたの元へ"



◯あらすじ
老人ホーム。認知症のおばあさん。デュークというおじいさんは、ノートに書かれた物語を彼女に読み聞かせる。

ノアという青年は別荘にやってきたアリーに一目惚れ。遊園地の観覧車にぶら下がり、強引にデートに誘う。
アリーはノアを拒む。諦めないノア。
アリーは友人カップルと映画へ。そこにも友人に頼んで呼んでもらうノア。
映画では離れた席に座っていたけれど、途中でノアは隣に移動する。
映画を観たあと、仲良くなる。夜の車の来ない通りで横になり、信号を眺めるノア。それは昔父とやった遊び。アリーにも勧める。車に轢かれそうになる。アリーはそのドキドキ感に楽しくなる。両親になんでも決められてきたアリーにとって、自由なノアは魅力的になってくる。

2人は付き合う。
アリーは初めてノアの家へ。ノアはテラスで父と詩を読んでいた。
ノアもアリーの家へ。裕福な家庭のアリー。収入などを聞かれて気まずい。アリーの行く大学は両親が決めてる。それもノアのいるところから遠い大学。

ノアはアリーを古い屋敷に連れて行く。いつか買い取って改築したい。農場を始めたい。

どんな家にしたいか。
アリー「家は白。雨戸は青がいいわ。川に面したアトリエ」「家を取り巻く大きなポーチ。お茶を飲んで夕陽を見るの」
二人は約束する。
アリーはピアノを弾く。
アリーはノアに抱いてと言う。
そこに友だちが来る。アリーの両親が警察に捜索願いを出して探しているという。
深夜2時。アリーの両親はノアをバカにしている。失恋するか妊娠するかがオチだと母は言う。
それを隣の部屋で聞いていたノアはアリーの家を出る。アリーがノアの元へ。しかしケンカしてしまう。

アリーの両親は家に戻ると言う。
アリーはノアの職場に行くも、会えなかった。共通の友だちに伝言を頼む。
友だちから聞いたノアはアリーの別荘にいるが、既にいなかった。

それから1年間、ノアはアリーに毎日手紙を出す。365通。しかし返信はなかった。

戦争。ノアは徴兵。パットン大戦車軍団配属。友だちの死。

アリーはボランティアで看護婦として活動する。そこで重症だったロンと出会う。
ロンはアリーをデートに誘う。まだノアのことが頭にあったけど。
裕福なロンは、アリーの両親にとっても魅力的。
ロンとアリーは婚約する。

ノアが軍隊から戻る。父親が家を売り、帰還兵へのお金と合わせて、古い屋敷を買い取ってくれる。

ある日、ノアはアリーを見かける。しかし、アリーはロンと仲良くしているところだった。

ノアは古い屋敷を修理する。
完成。ノアは古い屋敷を売ることにする。多額の金を提示してくれる人もいたが、なにかと文句をつけてノアは売らない。

結婚式直前。
アリーの結婚は新聞に載る。その新聞にノアと屋敷のことも載っている。それを見てアリーは気絶する。
アリーはけじめをつけるためにノアに会いに行く。
ノアに会う。ディナー。
ノアは見せたいものがあるから明日も来てと言う。

翌日。嵐が来る前に川へ。ボートを漕ぐ。たくさんの白鳥。
嵐が来る。
アリーはなんで連絡してくれなかったのかと聞く。
ノアは365通出したと言う。
アリーの母親が邪魔していたことに気づく。
二人は抱き合う。

アリーは最近絵を描いていなかった。そんなアリーのためにキャンバスを用意して、食べ物の調達に行くノア。

そこにアリーの母が来る。
アリーの父がロンにノアのことを話したから、駆けつけようとしている。
アリーの母は手紙を没収していたことを認め、謝る。帰りたくないアリー。
アリーの母は車でアリーを工場に連れて行く。そこで働く男を見せる。25年前に駆け落ちした人。
アリーの母も同じ経験があった。
アリーの母は涙を流す。
アリーの母はノアからの手紙をアリーに渡す。

アリーはノアと話をする。結局ケンカしてしまう。
アリーはロンに会いに行く。その途中でノアからの1年間の手紙を読む。
アリーはロンと話をする。

現在。施設。おばあさんはその物語が自分とデュークのことだと気づく。
前に戻ってこれたのは5分。
今回も短い時間を大切にする。昼に来てくれた若い家族は二人の子どもや孫。
しかし、アリーおばあさんはふたたびノアおじいさんを忘れ、他人だと思う。叫ぶ。

ノアおじいさんが心臓病で再度倒れる。その姿を見て不安そうなアリーおばあさん。
ノアおじいさんは一命を取り留める。
ノアおじいさんはアリーおばあさんの元へ。アリーおばあさんは記憶が戻っている。一緒に布団で寝る。一緒に死ねるといいと話す。
朝。看護師がアリーおばあさんの病室へ入る。ベッドで二人一緒に亡くなっているのを発見。