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ゆきゆきて、神軍のmarohideのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.5
 奥崎謙三という人物を大きな軸としたドキュメンタリーでありながら、同時に犯人探しのミステリーであり、そして強烈な戦争映画でもある。
 非常に面白かった。 

 内容としては冒頭、天皇パチンコ狙撃事件・皇室ポルノビラ事件のテロップと共に奥崎が紹介され、彼がかつての戦争で起きた上官による部下射殺事件について“捜査”するためかつての兵士を訪ねる姿を撮影した、という流れになっている。
 ところがこの奥崎という人物自体が観客にとっては提示された大きな謎であり、旧軍による凄惨な事件について明らかになるにつれ、奥崎自身の苛烈な暴力性や思想の一端という「謎」も明らかになっていくのだ。

 奥崎はエキセントリックな人物として見られがち(というかエキセントリックであること自体は間違いない)だが、一連の映像を見れば、一貫したこの人なりの筋、理屈があることがわかるだろう。
 この、「わかる」というのが重要だ。安易な共感や歩み寄りではなく、人物の背景にある道理に対する理解、これこそがドキュメンタリーの肝である。これのためにドキュメンタリーを見るのである。
 この映画にはそれが十分にあった。

 奥崎に対してのみならず、旧陸軍の人々に対しても同様の事が言える。彼らがようやく重い口を開く瞬間のそのディテールには一見の価値があると言えるだろう。
 繰り返すが、非常に面白い映画だった。
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