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ロッキーのmarohideのレビュー・感想・評価

ロッキー(1976年製作の映画)
4.0
 あの有名なテーマ曲、そしてボクシングという題材から、どうしてもマッチョな印象が先行し敬遠していたが、実際に観て随分的外れな印象であったことを知った。むしろ対極だ。
 ロッキーは、繊細な筆致で人生に傷つけられた人々を描いた作品であった。登場人物の誰もが弱く、痛みを抱えていた。

 場末のボクサーが偶然手にしたチャンスを掴み取るというシンデレラストーリーのプロットとは裏腹に、一発逆転めいたカタルシスはほとんど存在しないと言ってもよい。それは最後の試合が華々しいKO勝ちではなく、判定の末の敗北という結末であることからも見て取れる。
 この作品の醍醐味はむしろ、今と地続きの過去を覚束ないながらも一つずつ確認していくような確かな手触りである。

 ロッキーを主人公足らしめたのは、その善性だと思う。彼は多くの点でポーリーやミッキーなどと同じ人間であった。彼は超人でも英雄でもない。違うところがあるとすれば、その痛みを捨てるわけでもなく、飲みこむわけでもなく、そのまま同じ痛みを抱えた人々の隣にいることが出来た点だろう。

 ロッキーとエイドリアンの二人の美しさは言うまでもないが、特に心を動かされたのはジムトレーナーであるミッキーを追い返し、散々罵倒した末に追いかけて和解するシーンだ。
 台詞もなく、引きのカットだけで物語られるシーンであるが、その後ろ姿に様々な感情を見て取れる。なにより、直前に怒りを吐露するシーンがあるのが良い。これがなければ片手落ちであった。
 傍観者である観客としては、ここで完全にロッキーの善性を信頼する事ができた。

 続編も沢山あるようだが、結末が十分綺麗だったのでどうなのだろう。これで終わっても良いのでは、と思ってしまう。いつものことだ。
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