スローモーション男

ゆきゆきて、神軍のスローモーション男のレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.8
 大傑作だと思う…。

原一男監督の伝説的なドキュメンタリー映画で、アナーキスト奥崎謙三のすべてを撮した傑作。

 戦時中、パプアニューギニアに従軍していた独立工兵36連隊が部下を銃殺刑に処した。その理由は部下の肉を食べたことを隠蔽するためだったという噂を聞きつけ、奥崎謙三が上官たちの家に聞き込みしていく。

 凄まじい映画でした。
 奥崎謙三は、天皇陛下にパチンコ玉を売ったり天皇ポルノビラをばらまくほどの極左翼だが、この映画の真実を聞き込んでいる姿には圧倒される。あと、聞きに行く時は紳士で腰も低いんですよ。
 だが、どう見ても頭がおかしい部分もある。
 元上官たちは、事件のことを聞かれても「知らない」「わからない」「話したくない」「もう帰ってくれ」と真実を語らない。そんな無責任な人々に奥崎は暴力で制圧する。それを止めないで平気で撮ってる原一男というヤバい人たちしか出てこない映画。

 そして最終的に映画の外で事件は起きてしまう…。奥崎の生き方はこうでないといけなかったのか?彼もまた戦争によって狂わされたのか?

 奥崎の妻だけが、彼に寄り添っている。すごい奥さんだと思いました。

この映画自体、奥崎が演技をしていてやらせという意見があったり、パプアニューギニアに訪問した時の映像を政府に没収されたりと大変だったが、それでもここまで挑戦的な映画を作ってしまったのがすごい…。
 私のような20代の多くの人に観てほしい。教科書やテレビ番組、戦争映画でも語られない戦争の醜さ、身勝手さ。
 それは奥崎謙三でなければ、描けなかったのだと感じました…。