ぽこすけどうだら

きょうのできごと a day on the planetのぽこすけどうだらのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

「なぜクジラを彼らは見れなかったのか?」

 印象的なカップルは3組。①真紀と中沢、②ちよとかわち、③正道と電話の彼女。
 彼らはみな「上手くいっていない」。お互いを見る方向が微妙にずれていて、ほんの少しのきっかけで関係性が変わってしまう、そんな危うさを持っている。

 例えば、まず①真紀と中沢について。
 真紀は、中沢がけいとにしか見せない距離感や知らない一面を見て、彼自身をもっと知ろうとしているが、中沢は彼女に「可愛い」とか表層的な面しか見ていない(惚れてるからしょうがないけど)。つまり、知ろうとしていない。

 次に②ちよとかわちについて。
 ちよは、かわちが誰に対しても振る舞う薄い「やさしさや気遣い」が実はかわち自身がどう見られているかの表れであると見抜いている。見抜いてはいるけれど、そうはいってもやっぱり彼のことが好きだし、わがままもいう。彼女が欲しいのは、自分のわがままに付き合ってくれることではなくて自分をきちんと彼女として特別扱いしてほしいだけなのだ。だけど、彼はそんなことに気がついていない。

 最後に③正道の彼女と正道について。
 彼女は正道から会いにきてほしい伝えられても、はっきりとではなく、でもすこし距離を置いた感じてやんわりと拒絶する。正道が事故った直後でも、そのことを彼女に伝えず、なんでもないと嘘をつくこのシーンは、すごく印象的で、彼自身が気づかないうちに彼女に対して小さな嘘や伝えるべきことを伝えてないことを暗示している。そのことを彼女は察知していて、距離を置こうとしている(あるいは心が離れている)のかもしれない。

 ただ、これら3組のカップルの関係性がダメになっていっているかといったら決してそうではなくて、あくまで「きょうのできごと」であって、これから先どうなるか分からない。
 
いい意味で場違いなのは、自殺しようとした女子高生とクジラだ。彼女は自殺しようとしたけれど、クジラの漂着によりそれどころではなくなり、またクジラを囲む大人たちの行動に辟易する。その結果、死ぬことをやめ、海を後にした。

 ラスト近く、中沢たちは、クジラを見ることができなかった(女子高生とすれ違っているので場所は合っているはず)。クジラは動き出したのかもしれないし、消えたのかもしれない。それは誰にも分からない。