猫脳髄

マジックの猫脳髄のレビュー・感想・評価

マジック(1978年製作の映画)
3.4
アンソニー・ホプキンスを主役に据えた、リチャード・アッテンボローのサイコ・サスペンス。サスペンスの立て方の取り違え、混乱が起きており、随分もったいない印象が残る。

人気を集める腹話術師のホプキンスが、エージェントと対立して遁走し、生まれ故郷に幼馴染の女性を訪ねる。旧交を温めるふたりだったが、彼を探し出したエージェントから思わぬ要求を突きつけられ…という筋書き。

演出意図は「ホプキンスが狂っているのか否か」をメインに、「腹話術人形のファッツは独立した生命を持つのか」というサブテーマを絡ませていく。誤算の始まりは、ホプキンスが最初から狂っているのである。職業病とは言え、楽屋で独り人形と会話(人形の声ももちろんホプキンスが担当する)し、すぐに激高するうえに目はずっと座りっぱなし。こんなキャラクター造形ではそもそも狂気か否かという問いが立たないのである。

ゆえに、第2のテーマが論点になるが、人形の自律性を疑わせる描写を数多く盛り込み、ここではしっかりと緊張が高まるように仕掛けている。そして迎えるクライマックスで、驚くことに今まで高めてきたサスペンスが脱臼してしまうのである。これは意外だった。あくまでホラーでなくサスペンス映画の領域にあらんと抑制的になったのかもしれないが、見る側は落胆してしまう。

ホプキンスは良くも悪くも「性格俳優」であり、ハマらなかった時は悲惨である。役者の特性を見誤った演出の失敗と言うべきだろう。
猫脳髄

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