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ニューヨーク1997のEikeのレビュー・感想・評価

ニューヨーク1997(1981年製作の映画)
4.0
この作品が世に出た1981年と言えばスピルバーグやルーカスの大ヒット作が映画界を大きく変えていた時期にあたります。
「B級娯楽映画」に対して莫大な製作費と最新のテクノロジーを投入して「超大作」に仕立て上げる時代が到来した訳です(これは現在も変わってませんね)。
そんな流れに背を向けたこの作品が今でも輝きを失わずに愛されているのは中々に興味深いですね。

徹頭徹尾「低予算のB級アクション・サスペンス映画」でありますがその個性の際立ち方は無類であります。
主演のカート・ラッセルを筆頭にドナルド・プリゼンス、リー・バン・クリーフ、アーネスト・ボーグナインにハリー・ディーン・スタントンそしてアイザック・ヘイズまで揃えた布陣は実に「渋い」。
とても一般受けを考えた配役とは思えませんよね。
事実、スタジオ側は主演はトミー・リー・ジョーンズを希望していたそうです。
しかしディズニー映画の子役出身のカート・ラッセル氏はそのイメージを払拭すべくこの役を熱望。そして見事スネーク・プリスキンは時代のアイコンと化した訳です。
そもそもあのアイ・パッチのアイデアもラッセル氏のアドリブでカーペンター監督とも相談していなかったそうで面白い話ですね。

低予算作ながら今も魅力的に映るのは物語のオリジナリティはもちろんですが作品に込められた作り手の想いが伝わるからなのでしょう。
監督に進出する前のジェームズ・キャメロンが本作の特撮部分を担当していたり、本作のNYの街並みのミニチュアが翌年1982公開のブレードランナーに流用されていたりするのも面白いエピソードですね。

しかし何と言っても一番興味深いのは監獄島と化したマンハッタンに不時着した大統領救出作戦の捨て駒として扱われる主人公、スネーク・プリスキンのキャラクター造形でありましょう。
カーペンター監督の全作品に通じるものでありますが徹底して「反権力/反権威」的なのであります。
そしてこの点こそが本作の魅力であり、今日まで輝きを失わない理由でありましょう。
アメリカ映画のヒーローと言えばかつては組織内にあってもしがらみに縛られる事を良しとせず、反骨精神を貫き通すのが当たり前だったはず。
そんな味のあるヒーローが80年代以降どんどんと減って行った印象があります。
だからこそスネークのラストの行動の無茶苦茶さには思わず快哉を感じずにはいられないのであります。
たとえ世界中を敵に回そうとも「No!」を突きつけるヒーロー像はまさにロックンロール的。
元々カーペンター監督が本作のアイデアを練り始めたのはご存知「ウォーターゲート事件」がきっかけだったそうで、国家のシステムの歯車になることを拒否する主人公の行動にカーペンター氏の主張が強く滲み出ている気がいたします。

本来このストーリーならもっとアクション満載の娯楽色の強い作品を作り上げるのも簡単そうであるのに微妙なところでアクション・サスペンス共に物足りなさが残ります。
しかし、それが逆に作品の個性となっているところが実にニクイのであります。
それにしても70年代のアメリカンニューシネマの匂いを残す(つまりそれは私のような世代の人間にとっては映画らしい映画という事ですが)現代のアメリカの映画作家と言えばカーペンター氏とクリント・イーストウッド氏くらいではなかろうか?
B級でもいい、チープでも構わない。「Cool」であるとはこういうことをいうのです。
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