磯野マグロ

狂宴の磯野マグロのレビュー・感想・評価

狂宴(1954年製作の映画)
3.8
【忘れてしまえ…って無理だろ】139

シチュエーションとしては谷口千吉の「赤線基地」と同じ、朝鮮戦争で戦う米兵のための慰安施設が国中にボコボコと立っていた頃の、我がニホンの物語。これを見ると、WGIPなんていうヨタ話より、札ビラで横っ面引っ叩くほうが、よっぽど簡単に人間から誇りを奪いなんでも言うことを聞かせられることがよくわかる。っていうかこの状況を経てよく現在この程度で収まってるもんだと感心するほど。因習と世間体には、感謝してもしたりないでしょう。
明日の命もわからない米兵が遊ぶのが、田舎の砂利道の脇に立ち並ぶ、バラックに毛が生えた程度のキャバレーってのは切ないんだけど、一日中嬌声と浮薄な音楽が聞こえる家で育つ子どもたちは順調にダメになっていって取り返しがつかない。ある若い娘は米兵に襲われて人生を無駄にし、またある娘はそんなことは意にも介さず逞しく生きる。父親は「アメリカさんに守っていただくことを国が望んだんだ。そんな米兵をもてなして何が悪い」と自分の仕事の正当化に余念がない。
「赤線基地」はパンパンに部屋を貸すかどうかが大きな問題だったが、この映画は田畑売っ払ってキャバレーを経営している家の話がメインなので、子どもたちの壊れっぷりがはるかにすごい。なんたって小学生がヒロポン打ってるからね。わずかに残った田んぼで細々米を作るじいさまは、孫たちの行く末を心配するが、江戸時代同然のその生活を見ていると、それはそれでどうなのか、と現代人としては思ってしまう。
映画の最初と最後には「米軍による朝鮮への侵略」というナレーションや、内灘闘争の話もあって、とっても関川秀雄らしいスタンス。途中で出てくるおせっかい女子大生(奈良女子大?)や「法蓮町のおじさん」、ウワナベ池、法隆寺(よく撮影許可したよね)、会合に出てくる坊さんなど、奈良らしさがよく見えるのもおもしろい。
磯野マグロ

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