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オルフェのSPNminacoのレビュー・感想・評価

オルフェ(1950年製作の映画)
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オルフェウスの神話を翻案。車やバイクが死を運び、鏡やラジオを介して冥界へと通じる詩人オルフェ。傲慢でエゴイスティックな芸術家が死神に魅入られ、彼もまた死の王女の虜になる。ジャン・マレーはジャン・コクトーが描いた横顔とそっくりで、顔立ちと長身が彫刻みたいだ。
The Smithsのジャケットとしても有名な、鏡にうっとり頬寄せる場面は、後に死神とオルフェが寄り添う構図と重なる。彼が愛するのは鏡の中の自分だ。そして「作家にならずに書く」詩は冥界からの指令。意味不明なメッセージを受信し、言葉にするのが詩人の仕事。それは冥界旅と同じく頭で理解するものじゃない。
鏡をすり抜け死者が蘇る特撮シーンが、とてもなめらかで幻想的に良く出来ていた。浮遊する道行き、時間を逆行するクライマックスまで、白黒フィルムに映える優雅な動き。反射しない水面みたいな透明感の鏡はどういう仕掛けだろう。マリア・カザレスの衣装デザインも凝ってるし、ヘルメット姿の使徒がそこだけSFぽくて面白い。
神話と違って、オルフェが取り戻せないのは妻ではない。オルフェと死神は生死どちら側でも異端者として糾弾され、冥界は永遠に封じられてしまう。けれど、異端者や失われた愛こそが美しく魅惑的なんだろう。
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