蛸

歓びの毒牙(きば)の蛸のレビュー・感想・評価

歓びの毒牙(きば)(1969年製作の映画)
4.1
個人的に、プログラムピクチャーを作家性の強い監督が撮ると傑作が出来上がることが多い気がする。強烈な個性が(枠組みを与えられたことによって)散漫となることなく効果的に発揮されて、そのジャンルにおいて革新的な作品が出来上がる。リンチの『ブルーベルベット』レフィンの『ドライヴ』北野武の『アウトレイジ』などと同じく、ダリオ・アルジェントの『歓びの毒牙』もそのような映画の一つである。
ストーリーはあくまでも古典的。物語は、主人公が偶然に殺人事件を目撃したところから始まる。主人公は警察の証人として国内に留まることを余儀なくされる。事件を自分でも追うことにした彼は真相に近づくことで危険に晒されていく…
冒頭の殺人を止めようとした主人公がガラスの扉の間に挟まれて目撃者たることを強制され続けるシークエンスはとても印象的だ。冒頭の数分間の演出は一分の隙もなく、この時点で既に傑作の予感が漂っている。
随所で光るテクニカルな撮影はヒッチコックを彷彿とさせるが、こちらからは終始独特な映像美によって幻惑的で更に歪な印象が感じられる(ヒッチコックも相当歪んでるが表面上はウェルメイド)殺人のシーンにはほとんど官能的とも言える雰囲気が漂っている。すべての殺人がナイフで行われるので否が応でもレイプを連想してしまう(ラストで明かされる殺人の動機を踏まえるとこの連想はあながち間違ってないのかな…精神分析的というか…なんというか)
冒頭の殺人とラスト間際の展開が対応していて、どことなく円環構造を思わせるところも面白い。
これが監督第一作とは思えないほどの完成度。ダリオ・アルジェント恐るべし…
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