かなり悪いオヤジ

女の座のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

女の座(1962年製作の映画)
4.0
高峰秀子を筆頭に、司葉子、星由里子、淡路恵子、草笛光子、三益愛子、杉村春子、丹阿弥谷津子.....東宝が誇るスター女優たちが一同に会したオールスターキャストコメディ。今時のつまらないラブコメをTVで見させられて憤慨する暇があったら、よほどこちらの映画をご覧になることをおすすめしたい。流れるような成瀬のストーリーテリングを十二分に堪能できる1本に仕上がっている。

結婚&再婚問題を絡め、姉妹間で勃発する恋の鞘当てはもちろん、東京オリンピック道路開通の保証金欲しさに祖父金次郎(笠智衆)が営む雑貨店石川屋の利権に群がるあさましき兄妹たち。長男が他界し、息子と2人おっかない小姑に囲まれながら肩身の狭い思いをしている芳子(高峰)。それぞれの女優の見せ場を作りつつ、それでいて全体の流れを損なわないシナリオは、井手俊郎と松山善三によるものだ。

そんな女優たちのお相手を演じる男優陣のちょっとした目線や仕種で、その気のあるなしを一瞬で判断させる絶妙のモンタージュ。これだけ登場人物がゴチャゴチャしているのに、すんなりとストーリーが頭にはいってくるのは、成瀬の編集が上手い証拠であろう。本作の2年後に製作された同監督作品『乱れる』も本作と似たような設定&ストーリーだが、完成度という点では本作の方が上、とにかく見ていて楽しくなるのである。

しかし東京オリンピック開会直前、うかれ気分の日本人に冷や水をぶっかける演出も『乱れる』同様けっして忘れてはいない。石川屋で唯一赤の他人である芳子が“女の座”を守るため、必要以上のプレッシャーを一人息子にかけ続けたがために起きた悲劇。石川屋を一人切り盛りしていた芳子の苦労など知るよしもなく、金二郎の財産分与のことしか頭にない兄妹たちに自分たちのあさましさを気づかせるのである。

戦後の好景気に乗せられて誰もが猛烈サラリーマンに変われたわけではない。健のように、その波に乗り切れず人知れず消えていった心優しき日本人は、けっして一人や二人ではなかったはずだ。出自は悪くとも如才なく世間を渡り歩く六角谷(宝田明)をはじめ、会社をクビになってもちゃっかり石川屋に居座る橋本(三橋達也)、そして浮気相手に捨てられちゃあアパートに戻ってくる田村(加東大介)のように、それなりに“男の座”を世間の中に見出すことができた男たちは、数からすればむしろ少数派だったのかもしれない。