安堵霊タラコフスキー

女の座の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

女の座(1962年製作の映画)
3.0
ビデオですらレンタルが困難な映画ということだけど、監督が自分とあまり相性の良くない成瀬だからそこまで期待せず見てみたけど、成瀬映画の特徴がよくわかるという思わぬ収穫があったのは良かった。

というのも、まず第一に成瀬映画のカットは動作や台詞のそれぞれ始まりと終わりできっかり区切られていて、映っているのも台詞を言っている人物やそれを並んで聞いている人物が殆どだったりするのだけど、そのきっかり区切られたカットがまるでその場面を世界から隔絶しているようで露骨に嘘っぽい変な気分にさせられる。

そんな変な気分というのも、小津やストローブ=ユイレみたく撮影もカットも独特だったりウェス・アンダーソンやアキ・カウリスマキのように世界観が独特だったりすれば味として機能するのだけど、成瀬の場合は日常的な映画を主に作っていて撮影にも精々小津から少し差別化を図った程度の特徴しか無く、つまり撮影も世界観もそこまで独特と呼べるものではないから個性的な味わいよりも演出による違和感の方が先立ってしまう。

しかも大半のシーンで言葉の力に頼っているせいで演劇を見ているような気分にさせられ、それでいてベルイマンやドライヤーのように人物を印象的に映すこともせず基本的なバストショットばかりだから、映画的面白味に欠けた心地がして萎えてしまう。

ということで今回も色んな意味で平均的成瀬映画だったけれど、それでも奥行きのあり長い間持続する映像は良い味が出ていたし、成瀬の特徴についても勉強になったというので、映画館で見て損をしたという気分には全然ならなかった。