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トキワ荘の青春のkoheiのレビュー・感想・評価

トキワ荘の青春(1995年製作の映画)
3.7
《1つ屋根の下凌ぎを削った漫画家たちの軌跡》

トキワ荘で起きてた事ってどんな映画よりも稀有で格別なものだったんだろうなぁ、と最近ある小説を読んでいて思った。映像化されてるものを調べてみたらこの作品が出てきたので見てみました。


今作は、
実在した「トキワ荘」と、そのトキワ荘に住むのちに有名になる駆け出しの漫画家たちの青春を描いた史実を交えたフィクション映画。
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今作では、トキワ荘に住むみんなから兄として慕われていた寺田ヒロオが主人公として置かれ、藤子不二雄コンビや石ノ森章太郎、赤塚不二夫らが脇を固める。

序盤から中盤までは少し退屈してしまった。有名漫画家たちが売れるまでのそれぞれの交流や熱いドラマを期待していたのだけど、結構ドライな作品かつ淡々とした流れで、個人個人の頑張りに注目して撮られていたから。どうせフィクションなんだから、もっと人間ドラマを描いたら良いのにと思ったけど、終盤は心が温まる展開で、今まで我慢していたかのような爆発だったので心に刺さってしまった。最終的には作り手にうまく操られてしまった。

この映画で素晴らしいと思ったのは、藤子不二雄や石ノ森章太郎などの"売れた"漫画家を描くだけでなく、それ以上に"その裏で売れなかった"漫画家たちを巧く描き切った点である。確かに「トキワ荘は有名漫画家たちが奇跡的に生み出されていった場所」というのは自明の理だが、その裏で売れなかった漫画家たちももちろんいた訳で、その人達がいなければ赤塚不二夫などは売れていなかったと思わせる場面もあり、彼らも「奇跡的なトキワ荘」を語る上で重要な存在だったのだと思わされた。

『永い言い訳』では小説家だった本木さんがこの映画では漫画家を演じる。自分という人間と自分が描いた作品の綺麗さの狭間で葛藤する姿は、両作に共通する事だったので面白かった。この時代に漫画を描くという事自体かなり挑戦的で難しいことだっただろうな。

しかしすごいな。こんな人たちが1つ屋根の下で凌ぎを削っていたなんて。まさに映画のような現実だ。
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