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悲しみは空の彼方にのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

悲しみは空の彼方に(1959年製作の映画)
4.2
ダグラス・サーク2本目で、メロドラマの監督だと思っていたけれど、この厚みある人生ドラマに感動。
一緒に暮らし育った白人母娘と黒人母娘の物語の、黒人母アニーの愛の物語に尽きる。日本語で言えば「徳を積む」。アニーがなぜ白人男の子供を産んだかは語られないが想像できる。アニーの人生での忍耐と「解脱」(これまた仏教用語だが)により、自身を死によって解放させ、真の生き方を娘に伝えた。それが原題の『イミテーション・オブ・ライフ』なんじゃないかと思った。本当に高貴な生き方だった。

白人の姿で生まれたのに白人世界では白人と認められない娘サラジェーンの苦しみは誰にも理解できないと思うが、母アニーは死をもって示した。肌の色とは関係なく、正しい行いと考えで貴く清く美しく生きることができる。自分の人生を愛する人びとのために捧げた。人生の価値は社会的評価ではない、ましてや肌の色がどう関係あるのか。

骨太のアニーの物語に、同じくシングルマザーで野心家の女優ローラ、その娘スージーの母娘の愛で肉付けされているが、決して女優のきらびやかさや野心をアニーの生き方と対立させていない。シングルマザーが娘を養いながら夢を実現することを誰が否定できようか。

アニーの生き方にただただ感動する。

華やかな葬儀をして何がわるいの。アニーの夢なんだから。見ようによってはアニーのローラや白人への当て付けにもとれるかもしれない。でもそんな人ではなかった。アニーもローラも。アニーは白人社会を理解し、ローラの頑張る生き方を応援していたし、ローラの成功はアニーの夢でもあった。ただそこには壁があった。華やかに振る舞う女優ローラに憧れたアニーとアニーに支えられ夢を形にしたローラのシスターフッドを白い馬4頭に変えて、アニーは華やかに天国へ去っていく。沿道には数多くの人びとがアニーの死を悼んでいた。サラジェーンに見せたかった愛ある生き方であった。

原題の『イミテーション・オブ・ライフ』は誰のことを示したかは、野心家の華やかな女優ローラでもなく、白人に見られたいサラジェーンでもなく、差別される黒人の姿に産まれた貴人のアニーのことだと思った。

馬小屋で産まれたイエスになぞらえて。
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