黒澤明の監督作品は30作全て見ているが、脚本のみの作品ではまだ未見が多々あったうちの1本。
特に三船敏郎とのコンビは今後も追って見る予定。
(フィルマークスの今作タイトルの「万」は「萬」の誤り)
さて今作、やはり三船敏郎の存在感は別格だ。
序盤がややスローで、進藤英太郎(親父役)の頑固な演技が目に留まるぐらいだが、三船さんが登場以後は各人物の心理描写がかなり増すぐらいに感じる。
劇中の宴シーンで三船さんが "素っ頓狂" な歌で場を盛り上げるのだが、台詞を言う威厳のある表情とは打って変わって、ひょうきんな表情は「七人の侍」の菊千代役を彷彿とさせ、見入ってしまう。
(今作撮影時の三船さんは29~30歳ぐらいで、この貫禄は現代の40歳以上の名優でもなかなか出せない)
終盤、やっと来た "にしん" の網上げシーンは驚愕するほど大漁で、本当に魚(にしん)が来るまで機を伺うしか撮影出来なかったはずの描写は見事。
作品全体での評価は、他の両コンビの名作と比較すると落ちる事は否めないが、初期の三船敏郎の知る上で、ファンなら十分価値がある作品。