ごんす

あの夏、いちばん静かな海。のごんすのレビュー・感想・評価

4.8
美しい海やサーフィン以外のシーンの方が心に残っている映画。
聾唖の登場人物の描き方、男女の恋愛の描き方が今観ても全く古臭くない。
特に日本のつまらない恋愛ドラマに対してのアンチテーゼなんじゃないかとも感じるような男女の恋愛模様の見せ方。

言葉を喋らない男女だが手話を使って愛の言葉を言わせたりもしないし、ラブシーンもない。
ただ誰もが愛し合っている二人なんだなと序盤から分かる。

特に印象的なのは二人でバスに乗って帰ろうとするシーン。
混んでいるからサーフボードは駄目だと運転手に乗車を断られる真木演じる茂。
彼女だけがバスに乗り茂は彼女に「じゃあ」と言った感じで仕方なく一人で歩く。
途中バスとの距離を縮めようとするかのように走っているようにも見える。

彼女の方は沢山人が降りる停留所でほとんど空席になり乗客のお婆さんに席にかけるように促されても彼女は座らない。
そしておそらく目的地より前の停留所と思われる所でバスを降りて歩いてくる彼のもとに走る。
二人は再会。茂は微笑み肩を少し抱いて二人は並んで歩いていく。
もうここで映画終わっても良いぐらい好き。

遠距離恋愛でもない二人の何てことない日常の場面だが、新幹線のホームや空港で泣きながら抱き合ったり愛の言葉を叫ばせたりしなくても愛し合う男女を映してみせる演出手腕はさすが。

この男女二人の顔、特に映画内の真木蔵人の顔のショットはありえないぐらいに良い。
何その顔と思うような良い顔をしている。

北野映画でお馴染みの演出も久しぶりに観ると面白くて話に直接は関係ない人物のアップや二人組の印象的な登場人物などはやっぱり良いなと思った。

お話の内容自体は面白くない恋愛ドラマと同じだし結末もこういう話よくあるよなと思う。
ネタバレで内容を聞いたら観たことない人も観たかもと思いそうな話ではある。

そんなよくある男女の恋愛の物語を「おいらならこう撮るかな」とか言って作ったんじゃないかと感じた。
ごんす

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