YasujiOshiba

ゼイリブのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ゼイリブ(1988年製作の映画)
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U次。25-1。記念すべき2025年の一本め。なぎちゃんと。前に見てるのだけど、細かいディテールは忘れていた。

オープニングがめちゃかっこいい。陸橋の橋脚の意味深な落書き。ベースのドドンドードドという響きに合わせてカメラがゆっくりパン。貨物列車が通り過ぎるとそこにロディ・パイパーが立っている。主人公のナーダを演じるプロフェッショナル・レスラー。

そのパイパーかっこいい。肉体もそうなのだけど、周りを見回すその視線の演技がよい。もちろん「サングラスかけろ」「かけない」の果てに繰り広げる長い長い格闘シーンは彼のためにある。そのレスリングの相手役はキース・デイヴィッド。『遊星からの物体X』(1982)ではカート・ラッセルを相手にあの見事なラストシーンを演じた役者さん。彼は役者さんなのだけど、プロレスシーンが見事。あのボディコミュニケーションがなければパイパーとのコンビは成り立たない。

原作があったんだね。レイ・ネルソンの短編「Eight O’Clock in the Morning」 (1963)。ここでは催眠術のショーで舞台に立ったナーダが、目覚めよという掛け声で術師の催眠からだけではなく、エイリアンの催眠からも目覚めてしまうという設定。ひとり目覚めたナーダはそのままエイリアンを殺しまくり、最後はテレビ局で目覚めよと叫ぶ。

短編のラストシーンを訳しておこう。

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エイリアンはテレビカメラの前に座って、「私たちはあなたの友達です。私たちはあなたの友達です」と話しかけていたが、ジョージ(ナーダ)が入ってくるのが見えなかった。ジョージが銃で彼を撃ったとき、文の途中で立ち止まると、座ったまま死んだ。ジョージは彼の近くに立ち、エイリアンの鳴き声をまねて言った。「目を覚ませ。起きろ。ありのままの私たちを見ろ、私たちを殺すのだ!」。
その日の朝、街が聞いたのはジョージの声だったが、それはファシネーターのイメージだった。街は初めて目を覚まし、戦争が始まった。ジョージはとうとう訪れた勝利を見るまで生きられなかった。彼はちょうど(エイリアンにそう告げられたように)朝の8時に心臓発作で亡くなったのだ。

The alien was sitting before the the TV camera saying, “We are your friends. We are your friends,” and didn’t see George come in. When George shot him with the needle gun he simply stopped in mid-sentence and sat there, dead. George stood near him and said, imitating the alien croak, “Wake up. Wake up. See us as we are and kill us!”
It was George’s voice the city heard that morning, but it was the Fascinator’s image, and the city did awake for the very first time and the war began. George did not live to see the victory that finally came. He died of a heart attack at exactly eight o’clock.
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短編のPDFはここ。
https://pvto.weebly.com/uploads/9/1/5/0/91508780/eight_o’clock_in_the_morning-nelson.pdf

なんでもコミックにもなっているらしいけれど、いずれにせよカーペンターズがかなり書き加えていることがわかる。友人となるフランクも登場しないし、テレビ局に勤めるホーリー・トンプソン(メグ・フォスター)も登場しない。盲目の神父も反乱軍も登場しない。小説には恋人いるけれど、すぐに置き去りにされてしまう。すべては主人公のジョージ・ナーダひとりだけ。

そこから話を膨らませ、1980年代の終わりのバブルの時代への痛烈な批判となっている。ナーダがやってきたのも、その相棒となるフランクがやってきたのものデトロイトだけど、そこでは自動車産業が衰退し、ニッチもさっちもゆかなくなっている街。加えて、この時代は産業資本主義から金融資本主義へと大きく転換してゆく時代でもある。金が金を呼び、欲望が欲望を呼ぶという時代への、強烈な批判。

おそらく、原作のレイ・ネルソンが描くエイリアンとかファシネーターは、共産主義の洗脳が念頭にあったのだろう。それをカーペンターズは金融資本主義と呼ばれる「資本の宗教」による洗脳に置き換えたというわけだ。それが現在のディープステートとなってゆくのだと思うと、これはゾッとせざるを得ないよね。
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