イルーナ

いのちの食べかたのイルーナのレビュー・感想・評価

いのちの食べかた(2005年製作の映画)
3.7
普段は厚いベールに覆われている“食品加工"や“食品の流通"が、いったいどのようにして行われているかを描いたドキュメンタリー作品ですが……

大量消費社会に生きていると頭でわかっているつもりでも、いざ実際どうなっているかを見ると、これがまさに衝撃の連続です。

どんどん解体、処理をされて、吊るされたまま製品になっていく鶏や豚や牛、ベルトコンベアで運ばれていくヒヨコたち、肉をおいしくするために、生まれてすぐ去勢される子豚など、当たり前と言えばそれまでですが、残酷な場面が多く登場します。
しかしそれ以上に恐ろしいのは、食べ物を作る現場があまりにもシステマティックなこと。
何もかもが、どんなに残酷なことでも、すべて機械的な冷徹さで淡々とこなされていく。そこには、食べ物を作る代表的な職業である農業にありがちな、収穫の楽しみや、働く喜び、家畜との心暖まる交流といった牧歌的でほのぼのしたイメージなど欠片もありませんでした。
でも、よく考えたら身近な話であるはずなのに、その現場のことを全く知らないで送っている、私たちの日常の方が一番怖いのではないか、そう思えてきます。この非情なまでの食品加工の効率化がなければ、私たちは生きていけないのですし。

その一方で、木をゆすって実を落とす機械、牛の乳絞り用メリーゴーランド、牛の餌噴射機、惑星探査機のように長い腕を伸ばす農機、地下深くにある岩塩の採掘場のシーンなどは「おおっ」とうならされました。そのシーンだけ切り取って見せれば、まるでSF映画のワンシーンのようです。
しかもそれが私たちの食卓の裏にあることを考えると、何だかSFの世界が身近に感じられます。

また、この作品にはナレーションや音楽が一切ありません。そのことが生々しさや客観性を際立たせ、まるでその現場に社会見学に行ったような気分になります。
でも、この手の現場には行く機会が限られているだけに、見るだけでも貴重な体験になるでしょう。

このように、私たちの知らない世界を見せてくれるというだけでなく、“食べる"という行為の裏には、たくさんの生き物の犠牲や、たくさんの人や機械の働きがあるということを教えてくれる作品です。
そう考えると、「いただきます」や「ごちそうさま」という言葉や、「私たちの日々の糧」という原題が、深い意味を帯びてくるように感じます……
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