ambiorix

無法松の一生のambiorixのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1958年製作の映画)
3.8
主人公の松五郎は喧嘩っ早くて気性が荒く、思ったことを忖度せずに何でもズケズケ言うためにトラブルが絶えないが、人情味があって義侠心にあふれる男だった。
そんな彼がひょんなことから亡くなった大尉の未亡人とその息子の面倒をみることになるのだけど、あろうことか夫人に恋慕をしてしまう。はっきりした描写こそないが松五郎はこのとき大いに戸惑ったはずだ。「俺は今まで損得勘定抜きに生きてきたけど、この親子に対してはどうだろうか?息子への献身をだしにして奥さんと懇ろな仲になりたい気持ちがないと果たして言えるのか?」という葛藤があったに違いない。そこにはもちろん階級コンプレックスや死んだ旦那への罪悪感もあった。
その結果、2人の仲は平行線をたどるばかりでまったく進展しない。夫人の息子は成長して小学生から高校生になり、一方の松五郎は独身のまま急速に老いてゆく。時間経過によるこの対比はとても切ないし、松五郎が今までのように快男児として振る舞えば振る舞うほど彼の心中の空疎さや孤独が浮き彫りになってしまう。本編の中で何度も何度もインサートされる人力車の車輪のカットというのは、空回りし続ける気持ちや、変わり映えのしない日々が半ば永遠に続くさまを表象したものなのかもしれない。そして、最後の最後で本心を酒と一緒に呑み込んだ松五郎はみずから破滅へと向かってしまう。こんな悲しい終わり方があるか…。
しかしこれ、ぶっちゃけ奥さんの高峰秀子もひどいよね。あんなのべつに思わせぶりな態度を取られたんじゃあ松五郎が勘違いしちゃうのも無理なかろうて。
ambiorix

ambiorix