あの『サタンタンゴ』の姉妹編とも言える、タル・ベーラ監督作。原作小説『抵抗の憂鬱』は未読だが、読んでみたいと思う。タンゴのお次はハーモニーと来た。(笑)
これはよく比較されるタルコフスキーでもソクーロフでもない、どちらかと言えば黒澤やベルイマンやフェリーニにも近い伝統的な芸術映画という印象が強く、映画全体を通して少しお固い雰囲気がある。
この手の芸術映画の欠点として「高尚さを振りかざす」一種の傲慢ぶりが、些か黒澤明やドストエフスキー的な要素もあり自分としてはそこまで好みではなかった。
主演俳優がそれこそ『罪と罰』のラスコーリニコフや『地下室の手記』に出てくる内向的で自意識過剰な主人公みたいで、やはりヨーロッパ映画にありがちな厨二の感性を刺激してくれる。
謎の巨大クジラが出てきた途端、集団ヒステリーを起こして革命闘争へと持ち込む奇妙な寓話。『サタンタンゴ』同様に不吉なイメージが良く出ている。前作では終末的ヴィジョン(第二次大戦前の気配)を提示したが、今作では終末後の荒廃した世界観と抑圧された民衆の暴動を全く違うアプローチで皮肉っぽく描いている。
二作品に於ける落差が凄まじく、本作と『サタンタンゴ』とセットで観ないと監督の真意は伝わらないかも。『ニーチェの馬』は完全にSF映画になってたが、圧倒的な長回し映像で描かれるスケールと詩情の豊かな作品。怪奇幻想系、シュール・ファンタジー系の好きな方には是非ともオススメしたい逸品。