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男はつらいよ 寅次郎純情詩集のmatchypotterのレビュー・感想・評価

3.8
まだまだ先は長い。弱気を助け、強気を挫く、風天の長い長い道のり。

『男はつらいよ』シリーズ、第18作目。

今回の寸劇、いよいよ日本語ではなくなる。
寅さんがアフリカまで飛び出してて、それをさくらちゃんが探しにやってくる設定。
外国語を嗜む寅さん、笑うしかない。あまりに素っ頓狂で吹き出した。面白い。

今回は寅さんが他の人が子供や後世に託す教えや思いに触れるエピソード。

冒頭からいきなり、ひろしとさくらのところにみつおの学校の先生が家庭訪問にやってくる。
そこに示し合わせたかのような“お約束”、寅さん、凱旋。
タコ社長が「美人先生が来るのに、寅さん帰ってきたらどうするよ?」と言ってると帰ってくる。
この定番パターンは健在。

その先生が壇ふみ。美人すぎるもんだから、はたまた寅さんのいつもの“舞い上がり”があり、くだらない話で盛り上がる。
盛り上がるのは良いが、家庭訪問として真剣にみつおの話をしたいひろしとさくらちゃんの雰囲気をぶち壊す。

ひろしからしてみればせっかくみつおの学校生活や、これからのことを話せたはずなのに。それで珍しくひろしが寅さんに噛みつき、寅さん、あっという間に拗ねて飛び出す。

そこの出先で、何年かぶりに再開する地方行脚に明け暮れる劇団と再開。
そこでも、父と子の教えと絆に触れる。

それで舞い上がって、劇団におごりまくって、旅館でまさかの無銭飲食。
警察に捕まって、世話になってるのに、電話で呼び出されて迎えにいくさくらちゃんが来るまで、金もないのに、良いモノ食って、警官たちにコーヒーも奢る。

この辺が、今の時代の日本には絶対にない、あり得ないやりとり。無銭飲食決め込んで、ほぼほぼお咎めなしで警察でナゴナゴして帰ってくる。
寅さんがすごいのか、時代がすごいのか。

その流れで団子屋に戻るが、戻った瞬間に今度は先生壇ふみと、その母の京マチ子登場。京マチ子、オーラがすごい淑女。

この団子屋の連中と寅さんと、壇ふみ、京マチ子の出会い頭のやりとり。
これもまた今の日本ではなかなか見れないテンポの良いご挨拶や世間話の掛け合い。

見ず知らずの人を受け入れ、温かく迎え入れ、探り合いみたいな雰囲気もなく、それとなくワハハと笑えるこのひと時。
何かあんまり見かけなくなってしまった風景な気がする。

壇ふみ、京マチ子、洗練されたアイドル的な可愛さではなく、日本古来からの伝統的なわびさび漂う野に咲く花のような奥ゆかしい2人のレディ。

この寅さんの日常における非日常感との親和性がとても良い。何か既に何回か登場してたキャラクターなんじゃないかと思うほどナチュラルに馴染んでた。

ここでも壇ふみと京マチ子の親子の絆の物語がある。

親と子。
親は子供に心配が絶えず、何かを託す。
子供は親の背中見て育ちながら、時に親を邪険にしたりしたりするも、親の行く末を慮り労わる。

しかしながら、親は子供の気持ち、子供は親の気持ちがなかなかわからんもの。

両親に育てられたわけでもなく、結婚して子供がいるわけでもなく、定職についてるわけでもなく、ほぼほぼその日暮らしであちこち転々としながは生計を立てながらそのまま40代に突入した寅さんにとってはなかなか難題。

それをわからないと投げ捨てたりせず、とにかく目の前で困ってる人に手を差し伸べようとしたり、理解しようと努めたり、何かできることはないかと無駄に右往左往してみたり、楽しいことがあれば一緒に喜んでみたり。

さくらちゃんが予期せず壇ふみから京マチ子のことを聞きしんみりしてしまい、それを知らない寅さんはいつも通り。

親子ではないが、この兄妹の絆、阿吽の呼吸。
さくらちゃんにしかわからない寅さんの扱い方。

この後半の「芋の煮付けが食べたいと言ってる」からのさくらちゃんと寅さんのやりとり。団子屋での何かを察して自分にはどうにもできないイライラ感すら混じるバタバタからの顛末。
倍賞千恵子と渥美清が本当に兄妹なんじゃないかと思えてしまうこの呼吸。素敵過ぎる。

いつもいつも寅さんとモメたり諌めたりする一方で、突っ走る寅さんがいるからこそ他の家庭にはない賑やかさや暖かさ、粋な出会いや物語が生まれる。

最初からさくらちゃんは大好きだけど、ここまで来ると、この風景全体がとても尊く思えてくる。
だからやめられないシリーズ。


F:1958
M:1542
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