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太陽のSのネタバレレビュー・内容・結末

太陽(2005年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2021/11/13 DVD

ソクーロフ特集2021ラインナップ作品。
ヒトラーを描いた『モレク神』、レーニンを描いた『牡牛座 レーニンの肖像』に続く、ソクーロフ監督の20世紀の指導者を描く4部作の3作目にあたる。

舞台は1945年の第二次世界大戦終戦直前の日本で、昭和天皇の人間の姿に迫る。
神と崇められる孤独と苦悩、また謎多き私生活が、コミカルかつシリアス、哀愁を交えて描かれる。

天皇ヒロヒトを演じたイッセー尾形は、80年代から、舞台でのひとり芝居で活動されているが、芝居を観たのが本作が初めてだった。生前の天皇が動く姿を、あまり観る機会のない私たちにとって、こんな方だったのかと知るきっかけにもなる。
独特の口元をパクパクとさせる話し方に、「あっ、そう」という相槌の癖などを似せてユニークに演じられ、大半のシーンが尾形氏のひとり芝居と言っても過言ではない。

あくまで外国からの視点で描かれた天皇周囲であり、ロシアの巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督が得意とするファンタジー的側面が強く、皇室業務、歴史や戦争映画として掘り下げた内容ではない。淡々とした抽象的な場面が多いながらも、一つの映画作品として楽しめた。
敗戦で責任を背負い、トラウマに駆られた天皇がプライベートに興じる生物実験や、御子息の明仁様へしたためる書、また皇后様へ見せる弱さなど、ひとりの人間として興味深いものだった。
戦争による廃墟と化した街、昭和初期の皇室のレトロな内装、研究室のグレー一色の硬質さなど、これぞソクーロフ監督だと実感する美術。演出に関しても、ダグラス・マッカーサー(演じたロバート・ドーソンがそっくり)との会合、会食場面でのコミュニケーション、天皇が話す流暢な英会話に、日本語が入り混じる緊張感が凄かった。
侍従役の佐野史郎の静かな佇まい、皇后様役桃井かおりの最後の眼差しも印象的だった。

日本国内では昭和天皇を取り上げること自体が未だに問題視されているなかで、描いたソクーロフ監督の志は、改めて評価されるべき作品だと感じる。実際にロシアでは2005年に公開されたが、日本では2006年まで公開出来なかったそうだ。

2021-320
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