「リスボン物語」(4Kレストア版)
本作はリスボン市の依頼を受けたヴェンダース監督が、映画百年にあたって世界最高齢のオリベイラ監督を迎えて軽やかに綴った映画への愛の賛歌であり、このたび国内で初のBD 化され購入し、初鑑賞したが素晴らしかった。そもそもヴェンダースは70年代に「都会のアリス」「まわり道」「さすらい」を連打して、ニュー・ジャーマン・シネマの代表格としての地位を確立した。後にコッポラと関わり米国にも進出してあのパルムドールを受賞した「パリ、テキサス」を手がけてヒットしたのは周知の通りだろう。その後には路線変更したかと思わせるSF感満載の「夢の涯てまでも」を作っている。そんな彼の手がけた本作は方向性を戻したと言える一本である。映画は実際に撮影途中で方向性を見失って失踪した映画監督を主人公にしているようだ。
さて、物語は録音技師のフィリップは親友の映画監督フリッツから絵はがきを受け取る。そこには"SOS!今すぐ録音機材を持ってリスボンに来てくれ!"と記されていた。いざフィリップは車を走らせリスボンへ。しかし到着してフリッツの家を訪ねるがそこに彼の姿はなく、編集機には撮影済みのフィルムが残されたままだった。フィリップは町のざわめきを録音しながら、フリッツを探してリスボンの街をさまよう…と簡単に説明するとこんな感じで、ポルトガル、リスボンを舞台にこの白く輝く街には夢がある、映画がある、そして何より愛があると言わんばかりにヴェンダースが軽やかに綴る映画愛の作品である。やはり監督自らが監修した最新レストレーションによる美しい映像で作られる名作はたまらない。音楽も素晴らしいし彼の常連の役者が主演って言うところもたまらないファンにとっては。
映画とは何かを探るメタ作品とも言える。そんなアンチ的にも見えるヴェンダースの観る映像が映され、決して売る映像では無いことが窺える。ハリウッド的な作品は世界的にあるし、そのようなタイプと違うヨーロッパ的な作品を好む人はもちろん、娯楽以外の映像の醍醐味を味わいたい方にもお勧め出来る。と言ってもハリウッド的映画を否定している作風なので、嫌悪する人も中にはいるのかと…。やはりヴェンダースはヨーロッパ的イデオロギーとアートに深い敬愛があり、リュミエール兄弟が撮った本来あるべき姿の映像に回避し、それを受け継ぐ意思をこの90年代のヨーロッパで作り出したのである。大陸を移動するファースト・シーンの映像からくいるように観てしまう素晴らしい一本である。吉田広明氏のヨーロッパ語りは参考になった。