三樹夫

未知への飛行の三樹夫のレビュー・感想・評価

未知への飛行(1964年製作の映画)
4.3
水爆を積んだ爆撃機が機械の誤作動によりモスクワに水爆を落とせという命令が出たと思い、一心不乱にモスクワへと向かう。アメリカ側はなんとか通信をつなぎ機械の誤作動なので引き返せと伝えるが、そういった場合通信による口頭の命令は敵側による偽りの可能性もあるので意に介さないようにパイロットは訓練を受けていた。こうなってはもう爆撃機を撃墜するしかない。アメリカから戦闘機を飛ばし爆撃機を追いかけ撃墜を試みる。ソ連にも連絡を取りソ連側からも爆撃機の撃墜を頼むが、爆撃機は刻一刻とモスクワへと近づいていくのであった。万が一モスクワに水爆が落とされるようなことがあればと、大統領が下した決断がビックリするようなとんでもない決断で、誠意というか何というか、正直マイナスを増加させるだけの犠牲の拡大じゃないのかと個人的には思うが、とにかくとんでもない決断と結末で度肝を抜いてくる映画になっている。

この映画はオチ一発だけの映画ではなく、シドニー・ルメットの卓越した演出力でグイグイ引き込まれる。密室で軍人と政治家が会話と交渉を行うだけの構成になっているが、まあ手に汗握る。BGMを排しており、そのことで雰囲気を作っているし、機械の警報や作動音などを強調する機能もあり、ブザーが鳴ると観ていてビクっとなる。どんどん状況が悪化していくが、叫び出すなど感情的になる奴が誰一人としていないので観やすい。ギャーギャー叫んだところで状況が好転するわけではないので当たり前なんだけどね。
極限の状況下での性善説みたいな感じになっており、アメリカとソ連がお互いに信頼し合えるかが状況打開のカギとなっている。アメリカが誤作動とか言ってるけどほんとはただ単に攻撃してきてるだけじゃねぇのとソ連は疑心暗鬼だし、ソ連に情報を渡すのかとアメリカ内でもひと悶着ある。
悪役らしい悪役もいないのに状況が凄まじいことになっていくが、陰謀論軍人と冷笑系教授が唯一悪役的なキャラとなるのかな。冷笑系教授は軍事アドバイザーみたいなポジションでいるのだが、一刻も早くクビにした方がいいようなおっさん。このおっさんの提言に従っていたら絶対碌でもないことにしかならないが、作品のトーンから考えてこいつヤバい奴やぞというので提示されているキャラだ。
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