てつこてつ

ブロークバック・マウンテンのてつこてつのレビュー・感想・評価

4.3
オスカー最優秀監督賞受賞のアン・リー監督ならではの拘りぬいたカット割りによる映像美が、切なくも美しいストーリーに華を添える。

原作の短編も読んでいるが、この実写版は、カナダのカルガリー近辺で撮影された雄大な山岳風景、そして何と言っても、ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホールという二人の素晴らしい役者の演技によって、小説の登場人物がより魅力的になり素晴らしい作品となっている。

これがオスカーの最優秀作品賞を獲れなかったのは、やはり、公開当時、余りにも「ゲイのカウボーイのラブストーリー」として良くも悪くも煽られ過ぎてしまったのが、時代的にも厳しかったんだろうなあ。もちろん、最優秀作品賞を受賞した「クラッシュ」も秀作なんだけれど、他の賞レースの流れからすると、本来、絶対にこの作品が受賞すべきだったと今でも思う。

あと、ゴールデングローブの最優秀作品賞受賞時にプロデューサーもジョークで言ってたけど、「ゲイのカウボーイ」ではなく、正しくは「ゲイの羊飼い」だな。

主人公二人が山籠もりする際の、台詞はなくても圧倒的な大自然の描き方が素晴らしい。離れた場所に固まる羊の大群の構図も全て映像的に計算し尽くされていて、まるで美しい絵画を見ているかのよう。

「ライフ・オブ・パイ」「ハルク」「ある晴れた日に」「グリーン・ディスティニー」なんかも見ていても、アン・リーほど映像の見せ方に拘りを持つ監督はなかなかいない。ん、「パラサイト」のポン・ジュノ監督もそちらの系統だな。

二人のメインキャストが決まるまでは、かなり難航したと聞く。ジェイク・ギレンホールには、製作開始の数年前にも一度オファーがあったらしいが、今後のキャリアへの影響を憂慮してエージェント側がいったん断っている。その後、アン・リーが正式に監督に決まり、ジェイク自らが志願して来たとか。
彼が英国アカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞したのは嬉しい限り。

対するヒース・レジャーは自身の叔父がゲイらしく、この難しい役どころを快諾。オーストラリアの牧場で育ったので乗馬訓練も不要なほど達者であったとの事。彼も十分にオスカー最優秀男優賞受賞に相応しい名演だったけれど、対抗馬のフィリップ・シーモア・ハフマンが「カポーティ」という、いかにも賞を取りやすい役どころで、これはまあ仕方ない。

この作品での共演後にヒースと結婚するミシェル・ウィリアムズ、出世作「プリティ・プリンセス」の撮影の合間に女王のコスチュームのままでオーディションを受け、見事に正反対な役どころをあの若さで演じたアン・ハサウェイなど女優陣のキャスティングもお見事。

いずれにせよ、安易にLGBTQ作品としてカテゴライズされるべきではない、性別を超えた人間同士の純愛を描いた芸術作品。

オスカー作曲賞を受賞したグスターボ・サンタオラのサントラアルバムも聴き応えあり。作品中では少ししか流れないが、名カントリー・シンガーのウィリー・ネルソンの「He Was A Friend Of Mine」や、歌姫エミリー・ハリスの「A Love That Will Never Grow」など名曲揃い。
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