まさなつ

壁あつき部屋のまさなつのレビュー・感想・評価

壁あつき部屋(1956年製作の映画)
4.0
「壁あつき部屋」@シネ・ヌーヴォ
小林正樹映画祭。

監督の転換点ともなった重要作にして問題作。
占領軍への配慮で当時の松竹社長により3年間公開が延期されたいわくつきの作品です。

第二次大戦後、巣鴨刑務所に服役していたB、C級戦犯の手記を元に作成された安部公房脚本の作品。安部公房らしいシュールなシーンもありました。

上官の命令で、戦場で仕方なく加害者となり、その罪の重さに戦後も苦悩する彼らは、戦争で亡くなられた方々同様に最大の被害者なのかもしれません。彼らは赤紙一枚で戦場に行かされ、命令に従っただけ。もちろん従わなければ自分が処罰される。そして何とか生き残って帰国したら、今度は犯罪者として投獄され、罪の意識に苛まれ自ら命を落とす者や最悪死刑になるわけですから、彼らの無念の思いを考えると、いたたまれないです。それもその上官は罪を逃れている。彼らは、戦場で精神を、刑務所で肉体を、二度も殺されたようなものです。戦争がはじまれば、私達だれもがなりうる立場です。とても恐ろしいことです。BC級戦犯の悲劇を扱った映画では「私は貝になりたい」があり、あの作品も良かったですが、こちらの方が当時の状況を総合的にそして強烈に描いています。

この映画も、戦争を実体験された監督らしい戦争映画と言えます。暗く重い作品ですが、もう一つの戦争とも言える戦犯問題を考える上でとても重要な作品だと思います。
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