松井の天井直撃ホームラン

壁あつき部屋の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

壁あつき部屋(1956年製作の映画)
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☆☆☆★★★

「ビラで尻(ケツ)は拭けても、魂は拭けねえんだ!」

巨匠小林正樹の中でも地味〜な作品です。
題名の〝壁あつき〟とは刑務所の事。
同じ独居房でB級C級戦犯の6人が、アメリカからの独立。つまりは、本当の意味での〝終戦〟を待つ話。

主要な6人のアンサンブルは観ていると舞台向きとも言えるでしょうか。何故我々が戦犯として、このあつい壁に囲まれた壁の中に居なければならないのか?前半はそんな彼等の立場が、回想場面等で少しずつ明らかになって行く。
映画の中盤で、信欣三が当時を思い出し。望まぬ処刑で人を殺めてしまった苦悩から狂い死ぬ場面は、この映画の中での1つのクライマックスに入るでしょう。

映画は、そんな6人の苦悩を中心として進んで行くと。途中からA級戦犯達の「お国の為にやった事、だから戦犯に問われるのは無効だ!」…とゆう、当時の日本を占領していたアメリカからの解放運動のアジテーションの場面になる。
どこか、過去に起きた出来事は無かった事として主張する。現在の〝 どこかのお国の政権 〟と〟 その政権を支持する人達 〟の主張に繋がる雰囲気には、思わず観ていて軽い目眩を覚えるほどでした。

一方で、主要なキャスト陣を始めとするC級以下の数多くの彼等達は、B級C級とは名ばかりで、実際にはD級E級どころかそれ以下の男達ばかり。殆どの戦犯達は過酷な重労働で、永久に出られない者が多い。
上官の命令には逆らえずに人を殺めた人も居れば、伊藤雄之助に至っては、《朝鮮人だから》とゆう理由だけでここに居る始末。


映画の終着地点は。主要なキャストの1人が《復讐》を果たそうとする気持ちを眺めながらも、段々と複雑な感情を抱きつつ。その決断には、ほんの少しだけの〝 救い 〟を観客に与えて終わる。
しかしながら、それがどこか奥歯にモノが挟まった様な感覚を覚えさせるのは何故なのか?
確かに、2つの異なる解放運動の噛み合わなさは。映画本編の話の内容から言っても必要事項ではあるはずなのに、映画全編の流れの中での唐突感は否めない…とも思えた。

但し《それ》をどうしても訴えたかった…との思いは。脚本を書いた安部公房の人生観にもよるところでしょう。そして晩年には『東京裁判』とゆう大傑作を完成させる事となる、巨匠小林正樹の、、、

〝 過去を記憶出来ない者は再び同じ過ちを繰り返えすであろう 、

…とゆう思いから発せられた、執念の作品の1つでもあるのだろう?…とも。

※ ほんの僅かだけの出演だったものの、岸恵子の超絶美人振りにはビビってしまった(u_u)

2020年10月3日 シネマブルースタジオ