垂直落下式サミング

二十四の瞳の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

二十四の瞳(1954年製作の映画)
5.0
『七人の侍』『ゴジラ』『二十四の瞳』
日本映画の三つの名作は、同じ1954年に製作され公開された。そして、三作とも「戦後に落とし前をつける」はなしだという点で一致する。ここは日本という国の転換期だった。
1952年にGHQの占領が終わって、日本が自立して産業を展開することを許された。やっとのことで復興を果たした国で、その時代を写し取ったかのように戦後を清算する物語が生まれることは必然だったのだろう。当時の映画作家たちは、この物語を語らずにいられるわけがなかったのだ。
決して豊かでは無い時代に、貧困のしわ寄せをダイレクトに受けた子供たちの物語。それをただ見ているしかなかった女先生の苦悩が描かれる。
自転車にのった女先生が学校に向かう。子供たちが歌を歌いながら通り過ぎていく。ありふれた営み、ありふれた山の形、ありふれた顔だちの出演者、ありふれた風景のなかに映画の力が宿っている。平凡と凡庸の美学だ。
特に、音楽に注目してほしい。ここしかないという的確な場面での効果的な曲のカットイン!最初は日本の童謡唱歌なのに、徐々に勇ましい軍歌の挿入が目立つようになり、そしてラストで本来の歌詞の意図とはまったく違う意味を持って歌われる「浜辺の歌」。この物語では、歌が台詞以上に意味を持つ。ミュージカルだ。松竹映画の小気味良い編集が光る作品である。
『陸軍』『喜びも悲しみも幾歳月』、そして原恵一監督の『はじまりのみち』と続けてみると、木下恵介が貫いた戦争に対する揺るぎない姿勢を知ることができる。
全人類は一生のうちに五億回みてください。