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浮き雲のSのネタバレレビュー・内容・結末

浮き雲(1996年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アキ・カウリスマキ監督による“フィンランド三部作”(敗者三部作とも呼ばれる)の第1作。
慎ましく幸せな結婚生活を送る中年夫婦に突如襲い掛かった、不運が続く毎日を描く。

舞台はフィンランドのヘルシンキ。
市電の運転手をしている男性ラウリはある日、リストラに遭ってあえなく失業してしまう。同じ頃、レストランで給仕長をする彼の妻イロナも職を失う。やがてラウリは転職してバスの運転手になったが、健康診断で聴覚の異状が見つかり、職どころか運転免許までも一気に失い卒倒する。イロナは職業案内所でやっと見つけた安食堂の仕事が、不正なオーナーのおかげで、資金もまともに払われずじまい。さらに不運や災難が訪れ、金にも運にも見放されるが…

部屋の写真立てから、夫婦の間に授かった子供を過去に亡くしており、その辛い経験から犬を飼っているように見える。

夫婦の慎ましく暮らしアパートの部屋の壁や北欧家具、キッチンやアイロンが、レトロでオモチャみたいな可愛らしさ。イロナの洋服の色彩とのコントラストが美しい。

カリ・ヴァーナネン演じる夫ラウリは、運転手の職を解雇された事を妻に言えなかったり、新しい仕事が見つかったと報告する時は威張って亭主関白に振る舞うが、酒に溺れてしまう。どこか危なっかしいが、貧しくても妻に花束を贈る愛妻家。
皿洗いから初めたレストランでは給仕長になった妻イロナ。過酷な現実をグッと堪え、職を得るために努力を惜しまない芯の強い女性を演じたカティ・オウティネンが素晴らしい。幸薄そうな仏頂目、かつ不機嫌そうな独特の表情に味わいがあり、カウリスマキ作品の顔と言える女優である。

イロナが働いていたレストランの元オーナーの女性に出会い、資金援助して新たなレストランで夫婦共に働けることになり、やがてオープンの日を迎えるが、なかなか客が来ない。少しずつ増えていきやがて満席になる。という展開は『かもめ食堂』にとても似ており、本作に対するオマージュなのだろうか。

夫ラウリの妹が働いている映画館の壁に貼ってあるポスターが『ナイト・オン・ザ・プラネット』、『ラルジャン』、『アトランタ号』というセレクトが私の心をくすぐる。

エンドクレジットで、本作の公開半年前となる1995年7月13日に急逝した、マッティ・ペロンパーに捧ぐとあった。

2022/05/27 WOWOWプラス(録画)
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