ダンクシー

浮き雲のダンクシーのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
4.0
「失業手当をうけないと」
「物乞いなんか。俺にも意地がある。何とか職を探すさ」

世界幸福度ランキング7年連続1位のフィンランド。しかし、この映画の時代設定から推測すると、制作当時は不況だったのだろう。舞台はヘルシンキ。レストランの給仕長イロナと市電の運転士ラウリの夫婦が主人公。
しかし、不況に相次ぎ、ラウリは職をクビになってしまう。それもトランプのくじ引きで決めるというなんとも言い難いやり方で…。更に、イロナもレストランが買収されてしまった影響により、従業員諸共全員まとめてクビになってしまう。そして彼女らを追い込むのかの如く、新たなる不幸が襲いかかる…。

序盤のアルコール依存症のシェフの場面とかシェフラウリがボコボコにされる場面、カウリスマキらしいというか、バイオレンスな恐ろしい場面なのに、シュールに描かれていた。こういうところでちょっとクスッとなるのがカウリスマキの良さ。

人なんて皆プライドがあるだろうし、前職に誇りを持ってたら尚更。受け入れ難い失職という現実から目を背けたいもの。しかし、大事なのはプライドを捨ててやり直すことだろう。ラウリが受け取らなかった失業保険も、普通は受け取るべき。でもそれが出来ない人間らしさが上手く描けていたと思う。

改めて不況の恐ろしさと残酷さを目の当たりにした。やはりこの社会は労働者には冷たい。使用者が圧倒的な強者なのだ。これはどこの国も同じだろう。何よりこの作品のストーリーのようなことは、我々はもちろんの事、誰にでも起こる可能性のある話なのだ…。やってらんねー!!

クビ→新しい職を得るも健康検査にひっかかって職と免許を失う→非正規にレストランでの仕事を紹介してもらうも、オーナーから給料が支払われない(違法)→給料を貰いに殴り込むも半殺しにされるラウリ→新しくレストランを始めようとするも銀行はお金を融資してくれない→車を売ってまで得たお金を全てギャンブルに注ぎ込むもあえなく大敗し全財産を失う

……って、どんだけ不幸続くねん!エグいて!!

「アマレス協会から 今夜30人予約できるかと」

どん底まで落ちていったとして、底の底が分からないから怖いもの。しかし、イロナたちのようにどん底に落ち続けても、絶望に負けずに諦めなければ、いつか絶対に希望が見えてくる、訪れる。

不安定で儚い、どこへ漂うかも分からない"浮き雲"。タイトルの通り、希望も絶望も含んで人生は浮き雲のようなのだ。いつ消えるかも分からない浮き雲。しかし、それでも店の外に出て空を見上げる2人。このシーンが最も印象に残った。なんとも心が温まるというか、想像が膨らむシーンだった。。
ダンクシー

ダンクシー