りょう

浮き雲のりょうのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
3.8
 アキ・カウリスマキ監督の作品は、先日観たばかりの「マッチ工場の少女」が初めてでした。それと比較したからかもしれませんが、6年後のこの作品には、ちゃんと起承転結があって観やすかったです。
 というよりもむしろ、夫婦の境遇が悪化するばかりですが、そのエピソードの連続がかなり練られている印象で、とても面白かったです。喜怒哀楽の表現が抑制されているので、かなり淡々とした展開ですが、それが夫婦のひたむきな性格を象徴しているようにも思えました。
 個人的なことですが、大学生のときにレストランのアルバイトをしていて、その店舗が新装オープンするプロジェクトに参加しました。結局は、その3年後くらいに不況のあおりで閉店してしまい、全国チェーンのファミレスになってしまいます。閉店と開店の順番が逆ですが、イロナと似たような経験があるので、彼女の気持ちがよくわかります。
 ラウリとイロナの夫婦には、幼くして亡くなった男の子がいたようです。2人が飼っている犬が印象的ですが、そういう過去を想うと切なくなります。
 不運にもまったく好転しない2人の生活がつづくので、それほど特別なことでもないようなエンディングの展開は、なんだか日常にある奇跡のようで清々しかったです。この結末で素直に感動できないようなら、心の病を疑うべきかもしれません。
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